第十四話 映画
昼飯を食べた私達は桃から言われた通りに映画を見るため、ショッピングモールの中にある映画施設へと出向いた。
日曜の昼間なだけあって、様々なお客でごった返している。
友人同士に家族連れ、それに私達ようなカップルもいた。
都会の映画館なだけあり、シアターが十以上を数えており何処でいつ何がやるのかが一目では分からない。
売り場の上部にあるモニター画面に表示されている時刻表を確認して、私は自分の目的の映画を探す。
「ねえねえ。あれ見ない?」
その映画を見つけた私は横に居るなんと無しにモニターを眺めていた勇人の袖を軽く引っ張る。
「ん?どれだ?」
「ほら。あと20分後にやるミステリー映画。最近、友達の間でも話題なんだ」
「へえー」
楽しげに語る私に興味なさげな相槌をして、『まあなんでもいいよ』と清々しいぐらいに適当な返事をする勇人に私は溜息をこぼす。
好きな人へ態度がそれでいいのか?私だから良かったけど、もし違う人を好きになって、その人にもこんなぞんざいな態度を示していたら絶対に振られるぞ。
まあでも、幼馴染な私だからこんな態度を取っているのかもしれない。
「じゃあこれで決定ね。もうシアターに入れるみたいだし、ポップコーンとジュース買って中に入ろう」
「了解」
長くて蛇みたいに並ぶ売り場の行列の最後尾に私達は並んで、他愛もない会話をしながら順が来るのを待つ。
五分ほど経ち、ようやく私たちの番がやってきたので早速ジュースとポップコーンを頼む。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「えーっと、オレンジジュースと」
「コーラください」
「後、ポップコーンも二つ。キャラメル味でお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんがオーダーを取って、手際よくジュースとポップコーンを準備している間、後ろにいた中学生くらいの女の子二人が何やら私たちを見ながら朗らかに話している声が聞こえてきた。
「ねえねえ前の人達ってカップルかな」
「そうだよ。高校生くらいかな?」
「いいなぁ。私も高校になったら彼氏できるかな?」
「うーんわかんない。でも羨ましいよね」
「うん。滅茶苦茶羨ましい」
まあ何というか、今まで何度もこういう会話を聞いてきたけど、今回からは否定が出来なくなってしまった。
でもごめんね。君たちが思うような理想の心持じゃないんだよね、私だけ。
「というかさ、彼女さん超可愛くない?」
「うん分かる!凄いおしゃれ!」
ふふ、でしょ?私可愛いでしょ?分かってるじゃん中学生達よ!
聴こえてきた突然の褒め言葉に私は頬を弛緩してしまいながら、少しだけ胸を張る。
「それに彼氏さんもカッコイイ!」
「だよね。ちょっとクールな感じがいいよね」
えー勇人がかっこいい?
次に聴こえた会話に私は少しだけ顔を引きつりながら勇人の顔を確認する。
いつも通りのつまらなさそうな顔が大きく欠伸をしている姿はとてもカッコイイとは形容できない程に不細工な様相に私は見えた。
すると、勇人は欠伸が終わると視線を感じたのかこっちを見て、私と目が合うと忽然とドヤ顔を浮かべて見せた。
あっこいつも後ろの会話聴いていたな?というかその顔うざいな。
イラッとした私は靴で軽く勇人の足を踏みつける。
「イッ!何すんだよいきなり…」
「いや何となくうざかったから」
大衆の中心で大声を出して恥をかきまいと声を抑えながら尋ねる勇人の怒気の混ざった声音に私はプイっとしながらさらりと答えた。
「この靴三万もしたんだぞ。傷ついたらどうすんだ」
「三万でごちゃごちゃ言うな。私だってこの服五万もするんですけど」
「いやそれは関係ないだろ。というか服に五万も使うとか正気の沙汰じゃないだろ」
「男は服にお金かけないから分かんないかもしれないけど、女の子は服に何万もかけておしゃれするものなの!」
「まあでも、俺のギターに比べたら安いもんだな。俺のギター10万もしたし」
「はあーでたー無駄なものにお金かけるやつー。男はいつも無駄なものお金かけるよね(笑)」
「無駄じゃねーよ。お前の服の方が無駄だろ」
「いやそっちのほうが無駄でしょ!」
「あのーすいません。コーラとオレンジジュースとポップコーンお持ちしました」
待ち時間の間、私たちは些細なことからいつもの小喧嘩を繰り広げていると横から申し訳無さそうに店員が入ってきてくれた私達は一気に正気に戻る。
やばい~恥ずかしすぎるよこれ。
後ろの女の子達もすごい笑ってるし、並んでいる人たちの順番滅茶苦茶待たせてしまっているし!
「あっすいません」
勇人も羞恥にさらされて、知らんぷりと言わんばかりに横を向いてジュースとポップコーンを受け取ろうとしないので仕方なく私は店員さんの顔を一切見ることなく受け取った。
そして私たちは逃げるようにその場から立ち退いて、足早にシアターへと向かう。
「これお願いします」
「はい、お預かりいたします。ではGー6と7の席が空いておりますのでそちらお席でお楽しみください」
「分かりました。ありがとうございます」
シアターの前に常駐しているスタッフの人の指示通りに私達はシアターに入り、指定された席に着席した。
「すっげえ恥ずかしかった…」
席に座るなり、肘を置いて頭を抱えながら愚痴を漏らし、羞恥心に悶える勇人は赤面した顔を冷やすように氷の沢山入ったコーラをすすった。
「本当に…勇人が変に意地はるから…」
「いやお前のほうこそだわ」
「いやいや。服はまだしもギターは関係なさすぎでしょ!」
「関係ないこと…いやこれ以上はやめよう。また醜態をさらすことになる」
「確かにそうだ。これ以上はやめよう」
またもや大衆に恥をさらすところだったけど勇人の冷静な英断によって何とか免れた。
これ以上また喋るとまた口げんかが勃発し兼ねないと感じた私達はこの後一切喋ることなく映画を堪能した。
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