第十三話 ゲーセンにて
「どうする勇人?まずは何処から行く?」
作り笑顔で微笑みながら問うと勇人はうーんと悩みだす。
「まあまずはゲーセン行って、腹が減ったらフードコートで飯食って、そのあと映画
見て、最後に買い物をすれば荷物を持ち歩かずに済むからそのルートで行かないか」
「あっうん。だねだね」
意外と冷静で驚き、普段絶対にしない様な返事をしてしまった。
何こいつ?もしかして昨日このルート考えてきたんじゃないの?
だとしたらちょっとおもろいけどきもいな。いやまあ恋人デートなんだから普通といえば普通なのかな?
まあどう考えてもここまですっと一緒に過ごしてきた幼馴染のことが全然好きじゃない私の方が普通じゃないのか。
「久しぶりにゲームセンターなんて来たけど、やっぱ広いね~」
ゲーセンのある二階へと上がった私は久しぶりに目にするゲーセンの広さはやはり都会のゲーセンなだけあってかフロアの半分近くを埋めており、思わず感嘆の声を上げるが勇人はそうでも無さそう。
普段から来るのだろうか?いやまあこいつ、朴念仁で表情があんまし変わんないから読めないだけで心では感心しているのかも。
まあ先輩よりかは何倍もマシだけどね。
「そういやこうして二人でゲーセンなんて久しぶりかもな」
勇人に言われて振り返ってみると確かにそうかもしれない。
小学校の時はここではないけど近くのスーパーのゲーセンに来ていたけど、中学生からは子供ぽいなと中学生特有のプライドが阻害して、何だかんだ敬遠していた気がする。
だけど、こうして来てみると少しだけ童心に帰ってしまう。
まあ私たちまだ高校二年生だから、童心に帰るのはまだ早いかな。
「そういえばそうだね。カラオケとかスポッチョとかご飯とかはよく行ってたけど」
自分で口にして私は少しだけ私に呆れた。
理由は明確でその思い出の大きさと歴の長さだ。
よくもまあここまで二人で色んなところに遊びに行って、ご飯も食べて、家に行くなんて日常茶飯事で、いつまで経っても飽きずに一緒に居る。
それでいて私は勇人のことを好きにならないなんて、もしかしたら私は頭がおかしいのかもしれない。
自分でいうのもなんだが自己肯定度がカンストしている私が人生で珍しく自分を卑下した瞬間だった。
「どした?んな思いつめた表情をして」
「いや何でも!まず何からやろうか?」
心の中で振り返りすぎて、話が変なほうへと逸脱し、無自覚に顔を顰めていた私に勇人が訝しんでいる表情で尋ねるが私は両手を全力で振ってごまかしてゲーセンの奥へと一人で突き進んで行き、その後を勇人が怪訝そうな趣だがついてくる。
危ない危ない。一応これはデートなんだから、あくまでも楽しい表情をしてなきゃ勇人に無駄な心配をかけさせてしまう。
告白を受けたからには恋人らしく振舞わなければ!
「これ!お菓子の詰め合わせセットだって!凄くない?」
「UFOキャッチャーかよ。そんなの普通取れないって」
私が演技ぽく話をUFOキャッチャーに指をさして振ると勇人は引きつった顔で夢の無いことをさらりと口にする。
「そんなことわかってるって。でも勇人、昔UFOキャッチャー凄く上手かったじゃん!」
「まあ昔な。でもあれは小さいお菓子やおもちゃだから取れただけで、これはさすがに無理だろ」
私の指したUFOキャッチャーの中を勇人は眉を細めながら、まじまじと見ているがあんまり乗り気ではなさそう。
だけど、貧乏性な勇人は基本的にケチなのでこういう分の無い遊びにお金をかけないのは自明。
だから勇人はこう言えば乗り気になる。
「お金は全部私が出します。しかも取り分は半分」
「よしやろう」
これぞまさしく即答、と言わんばかりに一気に乗り気になると勇人は右手にレバーを持ち、左手をボタンに添えた。
私は相変わらずの勇人と幼馴染のコントロールがうまい私への呆れた溜息をこぼすと
財布から100円を取り出して、投入口へと入れる。
すると、コミカルな安っぽい音楽が流れると勇人はレバーでアームを操作する。
アームはかなり大きく、お菓子の詰め合わせを覆うには十分で勇人は見事にお菓子の詰め合わせを捉えたがアームの力が弱すぎるせいでお菓子はほとんど動かず、一番上についている袋を留めるためのリボンが小さく揺れるだけに終わった。
「なんだこれ?アーム弱すぎだろ…取らせる気あんのか?」
少し落ち込んだ声音で肩を落とすと勇人は続けて二回目、三回目とチャレンジしていくがアハ体験レベルしか最初と位置が変わっておらず、正直取れる未来が見えない。
「…やっぱ無理だなこれ」
「ふっこのリア充どもめ!そのまま金をむしり取られて帰れ!そして爆発しろ!」
「!?」
落ち込んで肩と頭をガクッと落とす勇人の後ろで小さな声で私怨を露にする店員さんの言葉に私は思わず耳を疑って振り返った。
けど、その店員さんは何事もなかったように『いらっしゃいませー』と接客をしており、公私の切り替えの速度凄まじい。
まあ勇人は気づいていないようだったのでまあいいや。
でも、正規の方法で取れないとなると何か怜悧なやり方で取らなきゃいけない。
そこで私は一度そのUFOキャッチャーをぐるっと一周して推察しているとリボンと袋の間にアームが丁度入れる小さな隙間があるのが見えた。
「ねえねえ」
「ん?」
「あそこの隙間にアーム入れれない?」
「えっ?あそこ?うーんまあ無理ではないが…」
「ちょっとやってみて」
「うん。分かった」
勇人はレバーを持ちUFOキャッチャーに向きなおり、私が100円を入れると勇人は私の言った通り綺麗に隙間にアームの片側を入れ込んだ。
深くまで突き刺さり、完全にアームがお菓子をとらえるとそのままお菓子は取り出し口へと落ちた。
「やったね勇人!400円で大量のお菓子ゲット!」
「凄いな。意外とやってみるもんだな」
勇人は目をキラキラと輝かせて、まるで子供ように私の持っているお菓子の詰め合わせを眺めていたが恐らくお菓子に感動しているというよりも得した額に感動しているのだろう。
「っち!せこい技使いやがって!食べ過ぎで糖尿病にもなればいいのに」
「!?」
再度、私怨のこもった言葉が聞こえてきて私は振り返ると今度は完全に目が合って、店員は一瞬焦燥しきった表情を浮かべるがまたもや凄まじい速度で店員の様相へと戻った。
今完全に目が合いましたよね?『あっやべ』って思いましたよね?
公私混同もほどほどにしてほしいところ。
すると、私が店員さんのほうを見て飽き飽きしていると勇人も私が向いている方へと目を遣る。
「どうした?」
「いや何でもないよ」
「そういやあの店員さん、俺達への暴言凄かったな」
「あっ勇人も気づいてたんだ」
何にもリアクションがないからてっきり気が付いていないと思ってたけど、勇人の耳にも届いていたらしい。
取り敢えず、ここのレビューはあの人の名前を付けて低評価を押しておこう。
その後、私達はそこそこにゲームセンターを満喫した後にゲーセンを後にした。
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