第十二話 初デート

 4月が間もなく終わるゴールデンウイーク前日、俺は自室でスマホの画面の前で葛藤していた。


出来ることなら俺はこのゴールデンウイーク中に立花との中を深めたかった。


だが、現状においてそれは難しい。


立花とどこかへ出かけているところを誰かに見られれば必ず学校中で浮名が広がる。

立花にも迷惑がかかるし、舞の耳に入れば舞自身を傷つきかねない。


それに彼女がいる相手からの誘いをまともに受けてくれるだろうか?


こんな事誰にも相談できないし、かといって何にもしないのは嫌だ。


どうするべきか…


”プルルルルプルルルル”


悩んでいると右手に持っていたスマホが鳴り始め、俺は画面を確認すると

着信相手は舞からだった。


「どうした?」

「ねー勇人。明日か明後日か明々後日どれか暇な時間ある?」

「えっ?まあ明日は暇だけど」


答えながら俺はとあることに気付く。


そういえば舞とデートを一度もしたことがなかった。


そしてこの聞き方、恐らくはデートの誘いだろう。


「ほんと?じゃあ明日映画いかない?友達がチケットくれたから」

「映画?まあ別にいいけど。どこの映画館?」

「駅から歩いて10分のショッピングモールの中に設備されてる映画館」

「ああそこか」


正直明日の暇は立花のために取っておいたものなので断りたいところだが恋人である以上、断るわけにもいかないよなぁ…


「勿論いいよ。時間は何時にする」

「10時にショッピングモール集合で」

「一緒にはいかないのか?」

「えっ?うんまあ、そのほうが新鮮味があっていいじゃん」

「まあ別にいいけど」


恐らく適当に思い付いた提案なのだろうけど俺からしても気を使う時間が減るので結構ありがたい。


「じゃあまた明日ね」

「おう。また明日」


電話を切って、スマホを置いて俺は座っている椅子の背もたれに大きく体重をかけて

ふと思い詰めてしまいため息をつく。


本当は好きじゃないのに恋人みたいにデートをする。


無論この状況に何にも行動を起こさない俺が悪いのだから仕方ない。


けど、色んな意味で本当に心地いい気分じゃない。


普通の恋人だったら、多分小学校の頃のピクニックよりも浮足立って夜も眠れないだろうし、何時間もかけてウキウキで支度をすることだろう。


舞も今頃は時間かけて準備しているのだろうか。



 ゴールデンウイーク初日。私は今日、自らの誘いで勇人とデートの約束をしている。


カラオケ後の皆と夕食を食べたあの日、桃に映画のチケットを渡されて、皆に勇人と映画に行くようにと促進されて、断ることができなかった私は結局押されてしまい、不本意ながらデートに行く事になってしまった。


まあ、勇人と映画なんて何回も行ったことあるし、それだけなら問題ないのだけど、

『勇人と遊びに行く』ではなく『勇人という恋人とのデート』という言葉で枠取られると異様な嫌悪感を感じてしまう。


普段、勇人とどこかに行くときはほとんどメイクなんてしないし、服装もおしゃれよりも機能性を重視しているが今回ばかりはそうもいかないので一応、友達とお出かけするとき以上のメイクと服装で挑んではいる。


10時過ぎ。待ち合わせのショッピングモールに着くと勇人がいつも通りの格好でスマホをいじっていた。男は格好に気を使わなくていいなと少しだけ羨ましく思う。


「お待たせ勇人」

「おう。おはよう」

「ごめん支度してたらちょっと遅れた」

「別に。待つのは慣れっこだから気にすんな」

「普段よりも大分気合入れたんだけどどう?私の恰好。似合ってる?」

「えっ?まあうん。似合ってる似合ってる。超かわいい」

「ほんと?ありがとう」


(えっ?普段となんか違うか?いつも通りな気がするけど…でも舞が折角俺のために

気合いを入れたんだからここは傷つかないように褒めておくほうがいいだろう)


(こいつ。今まで私のこと一回も可愛いなんて言ったことないくせに恋人になった瞬間露骨にほめやがって!バレバレなんだよ!)


初心な勇人の反応に少しだけイラつきながらも私達はショッピングモールへと入る。


何回も来ているショッピングモールなので感想はこれといって湧いてこないがけど、一応デートという枠組みになっているはずだからここは彼女らしくしないと…

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