第十一話 呼び名が変わる
クラスの皆と別れて、私は仲のいい友達の荒井桃(あらいもも)、大曾根絵美里(おおぞねえみり)、桜佐星奈(さくらさせな)、堀田日葵(ほったひまり)、立花麗奈ちゃん達と私の六人でよく行くレストランへ夕食を食べるために来ていた。
日曜の夕食時なだけあって中はかなり込み合っていたけれど友達の一人が予約を入れてくれたおかげですんなりと入店して、席に座ることができた。
「ねえねえ何にする?」
「私はハンバーグセットで」
「私はグラタンにしよっかなー」
「あっ!期間限定の定食もあるじゃん」
友達たちがテーブルに大きなメニュー表を広げて、あれこれ相談している中でも私は基本的に何でもおいしく食べれるし、麗奈ちゃんはもとより控えめな性格なだけあってかその様子を俯瞰で眺めていた。
「舞と麗奈はどうする?」
皆が各々メニューを決め終わるとすぐに私と麗奈ちゃんに番が回り、私と麗奈ちゃんは何となくでメニュー表を眺めていた。
やっぱここのレストランは色んなのがあるな~。
海鮮丼や天丼、唐揚げにメンチカツ、油淋鶏なんかもあったりする。
女子は基本的に食べ物をシェアして、色んな料理を味わいたいい生き物なので皆が選んだグラタン、とんかつ、ハンバーグ、期間限定定食以外のものを頼むのが暗黙の了解としてある。
なのでそれ以外となると…やばいな。
大半の料理を今年、勇人が網羅していて食べたものばかりだ。
店と勇人で違うけど殆ど最近食べたものばかりであんまり食べたいものがない。
「私はミックスフライ定食でいいかな」
「じゃあ私はコーンポタージュ付のパスタをお願いします」
「おっけーい。じゃあ注文しちゃうね」
桃が呼び鈴を押すと、近くに居た店員さんがやはり忙しいのか片づけていたお皿たちが乗ったお盆を片手に注文を留めて厨房へと向かっていった。
「やっぱここは忙しいね」
「だね~。人気あるし、日曜の夕食時だもんね」
本当にそう思う。違うお店とはいえ勇人も今、これくらい忙しいのかな?
バイトをしていない私から言うのは少々生意気かもしれないけど、お疲れ様としか言いようがない。
普段ご飯を作ってもらっているし今度、何か奢ってあげようかな?
なんてそんな気分になりながら、私はテーブルにあるコップに入った水を飲んでいると突然に話題の矛先がこちらに向く。
「ねえねえ舞。一か月以上経つけど、勇人君とはうまくやってるの?」
「どうなの舞ちゃん?」
「えっ?うーん…それなりには」
上手くやっているかと聞かれれば正直困る。
お互いそこまで変わった印象はなく、それは私と勇人だけの時間が示していた。
まだ恋人ぽいことは何一つとしてしていないし、あっちから仕掛けてくる気配もない。
だから私は誤魔化すように桃と絵美里にそう返事をした。
「えー何その感じ」
「ねえねえどこまで?どこまで行ったの?」
「どこまで?まだデートも行ってないし、本当に何にも進展はないよ」
手を軽く横に振って、私は否定すると麗奈ちゃん以外の四人は引きつった顔で『えーー!』と残念そうな様子を見せる。
麗奈ちゃんはあんまりこういう話が好きじゃないのかずっと苦笑を浮かべていた。
「何それつまんない!もうちょっと進展して恋バナ聞かせてよ」
「そうだよ!」
「そんなこと言われてもなー」
日葵が自分の椅子を前後に揺らして、星奈がため息をテーブルにバタンと上半身倒していると桃が何かを思いついたのか声を上げる。
「そうだ!」
「何?どうしたの?」
そんな桃に私が少し驚きながらも聞くと桃は返答もせずに自分のカバンをがさがさと探り始めた。
「あった!これこれ、映画のペアチケット!」
「ペアチケット?」
「そう!ママがくれたんだけど、これで今月のゴールデンウィークに勇人君と一緒に映画デートでも行ってきなよ!」
「それいい!初デート行ってきなよ」
桃の気をきかせてくれたその提案に皆が乗り気になってしまい、断れない雰囲気になってしまった。
映画のチケットなんて、もちろんタダじゃない。
そのチケットを私のために授けてくれるのだからありがたい話ではあるんだけど、
とてもじゃないが行く気にはなれなかった。
「うーんじゃあ分かった。ありがとう」
だけど、恋人なのにデートに行っていないのがおかしいのもまた事実。
なので私は仕方なくそのチケットを桃から受け取って鞄へとしまった。
「頑張れよ!舞」
「いい恋バナ期待してるよ!」
「あっうん」
「頑張ってくださいね。舞ちゃん」
「麗奈ちゃんまで…まあできるだけね」
真面目な麗奈ちゃんにまでこんなことを言われてしまってはもう頑張るほか無かった。
私は作り笑顔で微笑して、私の話題はここで終わった。
レストランでの夕食が終わり皆と解散して、私は家へと帰る。
時刻は午後8時過ぎで帰路は完全に夜道になっており、そんな暗い道を一人で歩いていた。
「ただいま」
家のドアを開けて言うと小さな声にもかかわらず、家中に私の声が響き渡ったけれど私は中に誰もいないのは知っていた。
私の母と父は医療の仕事に務めており、帰りはいつも遅い。
だからこの時間でも大抵家には誰もいない。
暗い廊下に電気をつけて、私は二階の自室へと向かう。
窓から差し込む月明かりはカーテンが遮断しており部屋は暗く、部屋の電気をつけて
私は上着を脱いで鞄を置く。
家の中で一人ぼっち。小さい頃からずっとそうで私はその寂しさを補うように勇人の家によく遊びに行っていた。
実際のところ勇人とは家族よりも一緒に時を過ごしてきたわけで勇人との関係はそう簡単には切れるようなものじゃない。
昔はよく一緒にゲームや子供ぽい遊びだってした。
そして中学へと上がって、ちょっと成長して二人だけで買い物も映画もカラオケも焼肉もどこへだって遊びに行った。
振り返ると表情が弛緩してしまうほど楽しかったし、今思うと『馬鹿だな』と思う思い出だってたくさん築いてきた。
けど、もう今は…
勇人とどこかへ出かける事は遊びとは言わないんだよね…
そう思うと私の心は酷くぽっかりと開いてしまったような気がした。
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