第八話 クラスで親睦会

 四月中旬。学校が始まって二週間ほど経った今日この頃。


翔の提案でクラスの皆で週末にカラオケで親睦会を行うことになった。


強制的に全員参加という訳ではないけど、クラスのほぼ全員がこの会に参加した。


クラスメイトと仲良くなりたい訳ではないけど、誘いを断ってスクールカースト上位たちに『あいつマジでなんなん?せっかく誘ったのに断って。話す気ゼロじゃん。

もうあいつとは関わらないとこ』って思われて除け者にされるのが嫌だから、やむなしで参加せざるを得ない…っと健が言っていた。


俺的にはまだ話事ないやつも男女含めてたくさんいるし、クラスがこれから色んな行事に向けて上手くやっていくためにはかなり有意義な会だとは思っている。


それに俺は学級委員長なので止める理由も断る理由も存在しなかった。


 日曜日の昼過ぎに街中が人で溢れている中、俺は舞と一緒に集合場所に指定されていたカラオケへと向かった。


「そういやカラオケって結構久しぶりかもな」

「そう?私は結構来るけど」


カラオケの前で何気に一言呟いて振り返ってみると、最後に来たのは高校の最初の時に翔たちと一緒に来て以来かもしれない。


歌はそんなに得意じゃないし、どちらかと言えば聞くほうが好きなので今日はみんなが歌っているのを聞く専になろうかな。


「おお勇人、長久手」

「おお、翔」

「こんにちは翔くん」

「今、色々決めているからそこで待っといてくれ」

「了解」


カラオケに入ると、レジ前で店員さんと話している翔達クラスメイトが先に来ていた。


俺達は翔に言われた通り、待合スペースに向かい翔達の話が終わるのを待つ。


待合スペースにはもう既に10何人ほどクラスメイト達が集合しており、殆どのクラスメイトの私服姿を見るのが初めてなので何だが少し新鮮な気分だ。


概ねイメージ通りの私服を着ているが少数イメージとは異なるかなり派手目な服を着ているクラスメイトもいた。


そんな中、俺の中で一際目立って、目線が離れようとしない位燦然と美しく輝いていたのは空色の洋服に白を基調としたロングスカートを纏う立花だった。


「こんにちは豊川君、舞さん」

「おっおう。こんにちは立花」

「麗奈ちゃんこんにちは!今日も可愛いね」


舞は興奮気味に立花へと近づいていき、立花は赤面して照れながら『あっありがとうございます』っとはにかんだ微笑で返していた。


舞は見慣れているかもしれないが俺からすればそれ以上のマジで可愛いの一言に尽きる。


さっきまで美術品のように美しい立花に完全に見入ってしまったが、人間味溢れる立花のそんな仕草に自分の何かがはちきれそうで思わず目線を少し下に落とす。


「なんか恥ずかしいですね。皆さんの前で私服を見せるのは」

「だね。でも麗奈ちゃんは私と同じくらい可愛いから大丈夫大丈夫」

「本当ですか。なら安心ですね」


冗談まがいの二人のそんな会話を脇で聞いていると話が終わった翔達が戻ってきた。


「部屋取れた!二部屋取ったから、適当に均等になるように各自別れてくれ」


翔が大きな声で皆に伝達すると待合スペースに居たクラスメイト達が各々カラオケの部屋へと向かっていく。


「じゃあ行こう!」

「だな」

「はい」


舞が声をかけて、俺は先に部屋と向かう舞についていくように歩みを進めるとすぐに、俺の右腕の袖が軽く引っ張られた。


振り返ると俯きで立ち止まったままの立花が俺の袖をつかんでいた。


「?どうしたんだ立花」


怪訝に思いながらも俺は黙り込んでいる立花に尋ねた。


「あの。…今日の私の服…どうですか…」


途切れで途切れで聞いてきたその細い声音で俺は気付いて、そして後悔する。


そう言えば心の中では可愛いと褒めちぎっていたが直接本人に言ってないじゃん俺!


「いや滅茶苦茶似合っているよ本当に!」

「本当ですか?」


狼狽して早口になりながらも俺が褒めると立花は不安げな弱い声音で再度聞き返す。


「ああ。本当にその…可愛い」

「!?…ありがとうございます…へへ」


お礼を言いながら俺にだけに向けて魅せたそのはにかんだその笑顔は俺の胸を強く打ち付けるのに十分すぎるほどの威力だった。


「じゃあ行きましょうか」

「おっおう。そうだな」


照れた顔を見せまいと少し顔を隠しながら俺を横切って先に部屋へと向かう立花だったが俺は数秒動けずに思考停止してしまう。


すぐに我に返り、弛緩しただらしのない顔を整えてから皆のいる部屋へと向かった。


流石に今のは反則だろ…




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