第二話 どうやら俺達は色んな奴から茶化されているらしい
時刻はもうすぐ8時30分を指そうというとき、俺と舞は学校に着いた。
「おい遅刻ギリギリだぞ。さっさとクラスを確認して教室に入りなさい」
「おいーす」
「すいませーん」
走ったせいで汗が流れ息を切らしている俺たちに門の前で顔をしかめながら佇んていた生徒指導の教師の軽く注意を受けたが感情のこもっていないなめた態度で俺達は学校へと入る。
門を抜けるとすぐにクラスの振り分けがされた大きな紙がキャスター付きのホワイトボードに張り出せており、俺達は素早く自分たちのクラスを確認する。
「えーっと、あったあった。…ってマジかよ」
「うーんと、あったあった。…ってうそでしょ?」
張り出されたクラスの紙を見て俺たちは俺たちの運命に驚愕する。
俺の苗字は『豊川』。舞の苗字は『長久手』なので俺達はクラスが一緒ならほとんどの場合で番号が隣になる。
そう、俺たちが驚愕したのは自分の名前を見つけると同時にその視界の上下にお互いの名前が記載されていたのだ。
「同じクラスだな」
(クラスまで一緒になるとか神様まで俺達を茶化しに来てるのか?これから毎日
クラスのやつらにいじられ、茶化されるのかよ…やべえ、鬱になりそう)
「うん。だね」
(いやちょっと神様何してるの?せめてクラスくらいは別にしてよ!こっちは気持ちを抑えて、我慢して恋人やってるんだからクラスくらい安寧の場所にしてよ!)
「まあよかったな。同じクラスになれて」
「そうだね。よかったよかった…」
しかし変に落ち込んだ様子を見せれば怪しまれる可能性が高い。
だからかける言葉だけでも恋人ぽくしないとな。俺たち恋人なんだし。
作り笑顔で思ってもない言葉を吐いた後に教室に向かうと、学校の同級生全員が俺たちをチラチラと見ながらニヤニヤし始める。
今までもそこはかとなく朝の登校時に視線は感じていたけれど、ここまで全員が全員俺達を一瞥しているのは初めての経験だ。
「なんかすっごい見られるね」
「だな。いやか?」
「うーんまあ結構慣れていたつもりだけど、さすがにここまで見られるのはね…」
舞もやはり視線に気が付いていた様で顰蹙とした表情を見せる。
俺も舞と同じくここまで見られるのは気になるし結構鼻につく。
恥ずかしいとか見せ物じゃないとかじゃない。
ニュアンスで言うと皆に噓をついている申し訳なさとこの偽りの現状を
自分ではどうにもできないもどかしさを足した様な罪悪感と無力感。
けど、舞のこの表情はきっと恥ずかしさとか二人だけの時間を邪魔してほしくないとかそういう恋人、好きな人同士特有の感情が起因しているのだろう。
「まあ、時間が解決してくれるのを待つしかないな」
皆の視線をかえくぐりながら俺達は新しいクラスに入る。
すると、いつもよりも数倍大きな口笛や茶化しの言葉が俺たちに投げられる。
「…朝からうるせえ」
「テンション低いな~勇人。折角カップルになって初めての登校日なのに」
「いや恋人になる前から一緒に登校してたし。そんだけでテンション上がるか」
教室に入るなり、俺の肩に腕を回して肘で俺の体をぐいぐいしてくるのは高校一年のころからの付き合いになる友達の刈谷翔(かりやしょう)。
一言で言い表すとうるさい。まあよく言えば陽気と言えるのかもしれない。
だけど悪いやつではなく、寧ろいいやつだ。
だからこそ、このやかましさが目立ってしまうのが玉に瑕だ。
「ここで問題です!」
「なんだよ急に」
「君たちの席はいったいどこでしょうか?シンキングタイムスタート」
突然翔がクイズ番組の司会者のような素振りと口調に変わる。
けど、席なんてわかるわけもない。わかること言えば最初の席は番号順で決まるから
俺と舞の席が隣接している事だけだ。
「わかるわけないだろ」
「じゃあ正解発表な。正解は…あそこでした!」
テンション高く翔が指をさしたのはグラウンド側の黒板から見て右手一番奥のこの教室で一番目立たない席だった。
本来なら一番後ろの端と学生からしたら願ってもない位の嬉しい席なんだがこの状況ではお世辞にもいい席とは言えない。
「いやあ新クラス早々同じクラス、隣の席でしかも一番後ろの奥の席なんて、お前ら本当に運命に愛されてるな」
いや俺だけ運命に愛されてないんだけど…なにやらうんうんと頷きながら感銘を受けている翔と拍手喝さいのクラスメイト達。
「まっまあな」
しかし恋人である以上否定するわけにもいかず作り笑顔で答える。
「まあ私たち幼馴染だしね」
俺と舞は皆に歓迎されながら一番奥の自分たちの席に向かい、舞は窓側で俺がその隣の席に座る。
「よろしくね、勇人」
「ああ、よろしく」
「「「ひゅーーー!!!」」」
クラスの皆、別に悪いことをしているわけじゃない。だが妙にイラっとくる。
『人の気も知らないで…』っと腹に何かがぐるぐると回る。
春休みが終わったばかりで体力満タンだったはずの俺の体は朝のこの惨状で一気に体力切れになってしまった。
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