一章 二人の思いと関係
第一話 学年以上に変わってしまったもの
高校二年生最初の登校日。恋人になった俺たちは春休みの期間、なんて接したらいいか分からずほとんど会話が出来なかった。
けど高校二年の初日である今日、俺達はいつも通り一緒に学校へ行く事になっていた。
朝はいつも俺が舞の家の前に出向き、準備の遅い舞を待つことになっている。
色んな事が変わったはずなのにいつもと変わらない朝に違和感を覚えながらも俺は素早く学校の支度をして家を出た。
ふわーっと大きな欠伸を出して、眠気とだらけた体を起こすためにグーっと背を伸ばして舞の家の門の前に立った。
さてと、時刻は現在7時45分。学校には8時半までに登校しなければいけないから登校時間が10分ということを加味して猶予は30分というところか。
いつもこの時間帯に舞の家に来るが舞が家から出てくる時間はかなりバラバラ。
何でも髪のセットに時間がかかると来るのに時間がかかるらしい。
しかしそれはいつもの話。今回はいつもじゃない。
何故なら俺たちは恋人になったのだ。
待っている彼氏に見せる髪形なんていつも以上に時間をかける決まっている。
だとすればそれなりに時間はかかるはずだから…まあ遅刻しなかったらそれでいいか。
俺はいつもとさして変わらない日常に楽観視して、気長に舞が来るのを待つことにした。
…だがいつもで経っても舞が来ない。
こんな時間まで来なかったのは今まで無かったのに。
やはり準備にかなりの時間をかけているのだろう。
いつも以上に自分がよく見られたいから。そりゃあそうか、恋人だもんな。
もうすぐ8時20分になろうという時間に未だに舞が家から出てこない。
時間が迫り、遅刻するかもという焦燥に襲われていると家のほうから明らかに誰かが焦っているであろう、どたばたと大きな足音が聞こえてきた。
やがてドアが開いて、こちらを伺うように舞が表れた。
「…遅い」
言いたいことは色々あるが俺は簡潔に文句を言うと舞が必死に謝罪をする。
「はあ~行くぞ遅刻する」
取り敢えずこのままで遅刻してしまうので俺はまだドアの前に立っている舞を目くばせで呼ぶと舞は駆け足で門の外へと出て来た。
俺は息を切らして顔に汗が見える舞に舞の鞄を持つために手を差し出すと舞は察しが悪くて首を傾げる。
「鞄だよ鞄。このままじゃ遅刻するから走るぞ」
呆れながら俺は鞄指すと舞は納得のいった表情を受かべて俺に鞄を差し出した。
舞はかなり運動能力が低い。俺は走れば間に合うがこいつは多分間に合わない。
なので少しでも走る弊害をなくしてあげるために俺は舞の鞄を持つことにした。
両脇に俺と舞の鞄をそれぞれかけて俺が学校へ向けて走り出そうとすると舞が俺の腕をぐっとつかむ。
急に使われたので俺は後ろに体重がかかり転びそうになったが右足を後ろに出して何とかこらえて何ようかと舞のほうを見る。
「私、足遅いから。引っ張ってよ」
「えっ?まあ別にいいけど」
一瞬戸惑った。何回か手をつないだことはあるけれど、それは小さい頃の話。
お互い10を超えたあたりから一度も手なんてつないだことは無かった。
だけど俺は迷っている時間なんてないし、恋人なのに拒むのもおかしな話だと思い、
右手を差し出している舞の手を握って舞を引っ張りながら俺は学校へと向かう。
彩の右手を握りながら、走って学校へと向かう中、俺は痛感した。
恋人になってすぐにあんな風に手を差し出してこんな風に手をつなぐなんて。
やっぱり舞は俺のことが好きなのか…
どうしようか…自室の鏡の前で私は鏡に映る自分と格闘していた。
人生で一度も恋人なんてできたことがない私が好きでもない恋人の前にどんな顔して表れたらいいのか皆目見当がつかない。
それなりにモテる私だけど、モテるだけで一度も付き合ったことがない。
普通の恋人の初日ってどんな感じなの?というかいつも通りの髪形で行っていいものなのかな。流石にいつも通りいくのはNG?
でも私は勇人のことが好きなわけじゃない。
ただ周りに流されて、幼馴染を傷つけたくなくて付き合っただけ。
他に好きな人がいるし、勇人との今までの関係も壊したくない。
それに私は結構この髪形が気に入っている。
もし仮に私が勇人のことが好きであっても多分この髪形で表れていたと思うから別に特別髪型を変える必要はないかな。
そう思った私は時折スマホで恋愛系お悩み相談サイトを見ながらヘアスタイルを
整えてスマホで時間を確認すると時刻は8時20分を指していた。
「やばっ!」
色々考えてたらもうこんな時間じゃん!私は慌てて鞄を肩にかけて、家を出た。
家を出るといつもと変わらず勇人が家の門の前に立っていて、勇人の表情は少しだけ怒気が垣間見えていた。
「…遅せえ」
「ほんとにごめん」
目が合うと勇人はボソッと呆れた顔で口を開いて、私は申し訳なさに包まれた。
「はあ~行くぞ。遅刻する」
「あっうん」
いつもと変わらない様相に私は少しだけ安堵して、走って門へと向かう。
門を開けて勇人のもとに行くと勇人はなぜか私に手を差し出した。
勇人の行動に私は理解ができずに思わず首をかしげてしまう。
「鞄だよ鞄。このままじゃ遅刻するから走るぞ」
「あっうん。分かった」
今まで鞄なんて持ってくれたことなんてなかったので私は少しびっくりした。
だけどすぐに私は勇人の気持ちを察した。
私の鞄を持って走り出そうとする勇人を私は腕を引っ張って止める。
「どうしたんだ?」
「私、足遅いから。引っ張って」
「えっ?まあ別にいいけど」
このままでは遅刻する。足が遅い私じゃ走っても恐らく間に合わないだろう。
だから私は男子である勇人の力を借りる事にした。
勇人は戸惑いながらも私の手を握って、強い力で私を引っ張ってくれた。
いつもとは違う勇人の優しさに私は心の中の先程までの安堵が崩れて、すぐに非情な現実が起因して出来た落胆という感情が革命を起こしていた。
やっぱり勇人は私のこと好きなんだな…
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