冷製と灼熱の間、つまりは常温。
「貴様に問う。バルクアップ期のタンパク質、脂質、糖質摂取バランスを計算した際、貴様のタンパク質摂取量の割合は全体の何%を占めるかね?」
「なっ……は、80だ。そんなの人それぞれで、なんの基準に」
「ふむ、こいつはパルメザンだ。連れて行け」
キレテルヨ地方の新しい朝からごきげんよう。
命令無視でガチの千里を一夜にして進軍いたしました、帝国所属遊撃小隊
嘆かわしい事に男世帯なのであります。大穴の開いた軍服の替えなんてございません。ましてや
故に医療用ホチキスでバチンです。ロンメルが上衣を私にかけようとしましたが、袖が余るという少々納得がいかない事案が発生する為、拒否権を行使させていただきました。他の奴らも同義だ、誰の上着を差し出されても絶対に着ないからな……!!
さてキレテルヨ地方にて一個大隊クラスと戦闘。ほどなくして全戦闘員を捕虜とした所で冒頭の会話である。
ロンメル曰く「ロングブーツ市国の訛り」が見られたという敵兵。しかもきちんとした武装。前線の兵が上裸でもタンクトップでもないとは、共和国にしては些か不思議な様相なのだ。
考えてもみろ。敵兵の武装がタンクトップじゃなかったという点を、大真面目に議論しなければならない滑稽さを。ちなみにフィジークではサーフパンツのデザインも加点対象になる為、少々ちゃらけたパンツを穿いている者についての判断もまた難しい。
ロングブーツの国家首相は確かカッペリーニとかいう、絶妙に煮え切らない外交をする男だったはずだ。帝国が軍事協定や支援を申し出た際に「帝国と肩を並べる為の闘い」と豪語し、練度の低い師団を編成したのちに砂漠戦で大多数を喪失。数ヶ月後にはヘタレて支援を申請してきた事は歴史的記憶にも新しい。アルデンテ程度には芯を持った政治をしていただきたいものだ。
そんな無茶振り戦闘を強いられた国家の中では、別思想が幅を利かせて武力を持ったとしてもおかしくはない。
武装組織——パルメザン。
所謂現体制への反対分子、そして本国が意図する方向とは真逆の他国への武力行使を行う組織だ。
この場合は糖質優位を謳う我が帝国と肩を並べたがる国家の方針に、真っ向から意義を唱え武力を持ってして闘争の意を示しているのだろう。
だが——まだ甘い。共和国戦力に扮するには、ひたすらにタンパク質だけ摂取すればいいと思っている程度の知識共有。これはいただけない。
筋肉を維持する為にも消費エネルギーは必要。故に通常期及びバルクアップ期の彼らはp(プロテイン)f(脂質)c(糖質)の割合を4:1:5若しくは3:1:6程度にしている事が多い。
なんなら摂取目安量は個人の目的と体重によって異なるので、きちんとした計算をする奴までいる。アホみたいにタンパク質だけとりゃいいという、一見すれば意識高めの回答は完全にアウトという訳だ。
しかし——。国家間の意識、そして完全に間違っている栄養学。
どちらかといえば共和国、皇国共に炭水化物を毛嫌いしそうな思想が蔓延っている。
「これはまずいかもな……」
「どうかしましたかフォーゲル?」
砂漠の乾燥した空気と気温にぴったりな、さっぱりした喉越しの紫蘇ジュース。待て、確かに紫蘇は欲しがってたから与えたが、なぜこのタイミングでバッチリそれが出てくるんだロンメル。
熱すぎる飲み物は喉が渇くが、冷たすぎてもいけない。温度管理までパーフェクト。国家にもこういった絶妙な塩梅を、冷製……いや冷静に沸騰させずに表面下で国家間の諍いを収めるといった常温外交として声高らかに提言したい。
あっ、でもカッペリーニは冷製が旨いよな。今晩のメニュー候補にしよう。
「こんな空気の中でプロテインばかり飲んでいては、喉が乾くでしょう。食事はタイミング、一見すればストイックな価値観でも時と場合を選ばなければそれは愚かな選択となり得ます」
皆さんもどうです? と紫蘇ジュースを差し出すロンメルに、敵兵が盛大にビビり散らかしている。まあそうだろうな、君たちほぼ全員この爽やか笑顔のイケメンに縦横無尽にブッ飛ばされた結果が今のこの状況だからな。
「なあロンメル……」
「いかがいたしました?」
とりあえず紫蘇ジュースが抜群に旨い事に礼を言う。嬉しそうなロンメル。
「我が部隊は概ね良好な戦果を挙げている。我が部隊は、な。然し全体的な状況としては帝国の増強とは列強諸国を大いに刺激する要因となり得るとは思わないか?」
「戦闘の激化と、我が国家の進軍状況を鑑みればノーとは言えないですね」
「今回のような同盟国家の反政府組織からの攻撃も合わせると、帝国は少々短期間で暴れすぎたのかもしれんな……」
さてどうするか。
頭の中で今の私の心境を表すかのようにボンジョヴィが流れている。
イッツマイライフ。
——だけどあの曲、なんでサビを聴いたら「やーっ」と言いたくなるんだろうな。
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