タスクとクリスピー生地は薄くてサクサクいける方がいい
始業チャイムではなく作戦開始の咆哮と銃声が辺りに響き渡る。
——昔から思ってたんだが、歩兵の突撃時の全力の声出しって居場所がバレるからやめたほうがいいんじゃないんだろうか。大群が押し寄せていると錯覚して怯ませる狙いもあるのだろうが。けれど正直それが通じるのは騎馬戦の時代まで、手段として重火器や偵察機を時代が持ってしまったのなら気合の入れ方も指導法も変えたほうがいいと思う。
さてそんな風に思いを馳せながら、我が小隊は独自に作戦を決行。
少ない人員の中先頭きって走らされるのであれば、こちとら別途効率重視の為の作戦と遠足のしおりを作っておいても問題なかろう。
歩兵の突撃の先頭には一輌の豆
「その名も『
名前の通り改良を重ねて12回目の耐久テストで期待値に相当したという、「どんな戦場も更地に」という意味が込められた——マジでロンメル以外動かせないんじゃないか戦車、ピザパン。
「砲塔は
「……もはやロンメルにしか扱えない代物です、じゃないか。ちなみにこの悪趣味な髑髏マークのボタンは?」
「濃縮粒子や原子の分裂時に熱源エネルギーの発生を見つけてね。それを利用して攻撃値を最大限まで高めた爆発作用のあるビームを造ってみたってわけ。まだ試験段階だけど、これまでにない破壊力が」
「外せ」
「えっ?」
「ハインケル、貴様が後世に渡って『悪逆非道の狂人者』と呼ばれたくなければこれだけは絶対に兵器化するな。外せ。中央にこの計算式を提出してないなら破棄しろ」
「えーっ、確かに計算上は殺傷率も高くって、アレな武器だけど。ロンメルくんなら使いこなせるよぉ」
「そういう問題じゃない、絶対に使うな。貴様はこれが人に使用された時の恐ろしさを知らんのだろ」
「う……ん。そこまで言うならぁ」
目の下にいつもと同じような濃いクマを張り付けたまま、恐らくその原子式の一つであったのだろうタトゥーをばりばりと引っ掻き始めるハインケル。「うーん、ダメかぁ。早期解決一網打尽を意識したのに改善点はぁ〜」とブツクサ呟く姿が若干危ない。
「ハインケル、その件については後日話し合おう。とにかく今は小隊長としてこれの使用は絶対に許可できん」
クアトロがメルトするのはピザだけでいい。そんなモンをうちの隊やこの世界で使わせてなるものか。
とりあえず小隊長指揮下として動くという立場からか、タメ口で話すようにと言われたのを了承したからかあまりゴネられはしなかった。ロンメルといい、ありがたい事ではあるが、天才の思考回路はよくわからんものだ。
『前方35度、渓谷上の木の影より高温度の魔力反応あり』
「合わせろ! ロンメル!」
「勿論です!!」
たった一輌ノコノコと出てきた車輌だからと舐める事勿れ。途端に砲弾に晒されたがそれが狙い。
爆音の接地したチリッと言う音が外装に響き、直後に瞬間転移し着地した地面から正面の砲台を叩く。少しばかりガソリンを流しておいたから、我々が消えた後の水面は一旦爆発炎上しているはずだ。第二陣の班は河岸にて待機させている。派手な爆発音と爆炎に我々の車輌が炎上し、歩兵隊も巻き込まれただろうと何も知らない敵は錯覚するはずだ。
突然渓谷の上に出現したピザパンに、後方で構えていた歩兵が応戦してくる。機関銃の掃射音に合わせ、その度に転移して叩き潰しているのだろう、車内が上下左右自由に揺らされた。
「ロンメルーっっ!!! もう少し揺れ、を」
「了解っ! 回転率を上げていきます!!」
「ちっがぁ、う!!」
「ウォラァアア! しっかり掴まってなフォーゲル!」
豆
「敵、戦車隊の中心点に着地!」
「オーケー、ロンメル。デザートタイムだ! 全ての蝋燭の火を吹き消してやれ!」
「了解っっ」
歯を食いしばり、電撃砲の発射スイッチを押したまま耐える。360度回転しつつ文字通り全方位での戦車の機動に損害を与える事に成功。そう、ロンメルは
「
「
火を噴くピザパン、進撃してくる戦車の一団を制し、後方から渓谷上の砲塔を全て挫く。
一方ブラン・マンジェ河の対岸からは、組分けした移動速度の最も速い班を撹乱要員として第二陣として先行させる。反対側の川岸に着いたタイミングで魚を焼かせておく。簡易だが煙幕にもなり得る、その為に全員分のガスマスクは中隊との合流前にハインケル経由で調達済みだ。馬鹿馬鹿しいと思うだろうが作戦は作戦、引っ掛かれば手段はどうあれ結果として煙幕なのだ。
後方でドンパチやられて前方は煙幕、大混乱であろう敵部隊を崖を登ってきた各班と合流し挟み撃ちというわけだ。
これぞ『ババロアーズ作戦』。生クリームは煮上がらせるが、グツグツに煮立ててはいけない。瞬間的な火力でサッと沸騰させ、そしてゼラチン……ではなく即時敵戦力の拘束を。足元を固めつつ全体を纏め冷却していく。
速度に驚いた残りの戦車隊は賢く一旦退却をするというわけだ。その奥にある要塞都市レアではこうはいかないだろうが、渓谷を攻略されては地の利がなくなる。戦力を回復させるために、マトモな思考回路を持つ部隊ならまず退却を選ぶだろう。
「総員! 戦闘やめっ!」
若干フラつきながらピザパンのハッチから降り立つ。
三半規管を鍛える為に、前転後転を一分繰り返してからの即立ち上がってシャドーボクシング——なんてのもやってたからな、平然を装える程にはなんとか大丈夫だ。
「フォーゲル、手を貸しましょうか?」
先に地面に降り立ったまま煌びやかな笑顔で手を差し伸べるロンメル。
お前絶対に出演する場所間違ってるぞ、そしてどうして全くフラついてないんだ……ロンメルのスペックの高さが恐ろしい。
「うむ。近隣に残存兵力なし、ここは我々帝国軍が抑えた、キミ達を捕虜として本国へ連行する」
「帝国軍になど屈するものか!」
拘束されながらもなお戦意を喪失しない若者は、未来を見据えた新任尉官だろうか。まぁ若いつっても、今の私の見た目よりはだいぶ歳上なのだろうが。
捕虜としての屈辱を受けるくらいならここで殺せ。そんな空気感が存分に出ているし、そう仕向けるかのようにだいぶ罵倒もされている。
まぁ何されるかわかったもんじゃないと怖いよな、自国が降伏も停戦もしていない以上黙って従うわけにもいくまい、そんな言葉も出るであろう。
部下たちが恐る恐るそれを見下ろす私の顔色を窺っているが、これは敵兵士の罵倒にうんざりし目が据わっているのではなく、ぶっちゃけ軽い乗り物酔いでテンションが低いだけだ。
「帝国への侮辱は重罪だ、本来なら小隊長命令として銃殺刑もあり得る——が」
「……が?」
「諸君、休憩なしの労働時間は6時間までと基準法にて定められている。うむ、たった今ジャストで6時間だ。つまり現状、ここは勤務外。残念ながら、私はプライベートで引き金を引くような趣味は全く持ち得ていなくてな。なぁ、お前らもほとんどがそうだろう?」
両手をひらひらと振る私の背後で、脅しのように拳銃を構えていたロンメルが「ふふっ」と笑い、銃を下げた音がした。
「定時だ! しかし悲しきかな退勤はさせてもらえぬらしい。即刻我らは近隣の偵察と後方への伝達へと任務を移行する。第4班、第5班は捕捉した敵兵の監視及び中隊への引き渡しをせよ。尋問は我が部隊が責任をもってする、ハインケルにも伝達済だ。中隊連中が余計な手出しをしないよう、しっかり見張っておけ」
「「
ブラン・マンジェ河攻略。ここを拠点とするか、大攻勢を率いて圧力をかけ条件的に有利な停戦を取り付けるか……降伏を迫るか。あとは上の判断に従うのみだ。であれば、自分達が安全に今日の飯を食える為の準備はしっかり整えねばなるまい。
「……フォーゲル、基準法ってそんな法律ありましたっけ」
隣を歩くロンメルがひっそりと耳打ちをしてくる。
「まぁな。遠い国のものかもしれんがな」
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