仕上げのナパーム・デス
我らは働き蟻、
戦わねばならぬとする者が二割、どちらでも良いと煮え切らぬ者が四割、逃げ出す者が四割、そして——裏切る者が二割。
貴様らに問う、貴様らは己を何としたいかを。
我ら
我がライフルは我が親友、我が糖質は我が心の祖となりて。その身が一塵に帰すその刻まで、我らその歩みを止める事勿れ。
我ら
我ら
故に我らが
内地での研究機関からグーテンモルゲン。
朝のナパーム弾の匂いは格別だとどこかで聞いたことがあるが、果たしてそうなのだろうか。
阿鼻叫喚、まさに阿鼻叫喚。
ハインケル技師の用意した訓練プログラムの仮想敵兵システムが、どっかの銀河帝国ばりに有能すぎて十二時間ほどぶっ通しで銃撃戦を繰り返している。もちろん使用しているのはゴム弾だ。
訓練メニューに口出しして、軽度ではあるがSERE訓練じみた狂気の合宿としてしまった事に対しては、全くもって申し訳ないとしか言いようがない。故に、私だけ高みの見物という訳にもいかず彼らと同じ訓練を受けてしまっている。
『エンゲージ!』
『エンゲージ!!』
痕跡を消し顰めと言ったのに。またもや銃撃音と悲鳴が上がる。
叫び声に近い隊員達の通信の中、この拷問じみた訓練に一人涼しい顔で対応している人物がいる。
——ロンメルだ。
「素晴らしいです! ロンメルくん、やはりキミは逸材ですね」
「悪趣味野郎の賛辞など聞きたくもないです」
涼しい顔して仮想敵システムの前へ瞬間移動。パンツァーファウストをもって一網打尽にする。まて、どっから持ってきたんだそんなデカブツ。
「怪しいと思ったところにはとりあえず弾丸をぶち込め!! ガードは私が引き受けよう!」
相変わらずヒャッハァしている
生存、回避、抵抗、脱走。まさにこんな世の中を生き抜いていくのにうってつけ。ウチの部隊員はそもそも生きる事を諦めたところがスタート、しかしどうした縁か私の下で腹を括ったと言うのなら、全員生還して帰らねばならぬ。
同じ釜の飯を食ったのなら、明日も共に朝日を見たほうがいいに決まっている。
——故に。申し訳ないがしごく事にした。
私の目の届く範囲であれば、彼らが実験材料とされる事もないと思ったのでね。
それからもう一つ。
「シュタインヘーガーくん、キミのスキル『ジンクス』発動までの待機時間に瞬きが入るのはどうにかならないのかい? コンマ数秒のロスだけど、今は座標をずらせている着弾ポイント、閃光弾みたいなのがくるとその一瞬の数センチが命取りだねぇ。あー、3番ポイントのキミ、ラドラーくんか。キミはその回転の速さを利用して、いっそのこと武器を刃物にした方がヒット率が上がる。銃は一旦ポイしちゃいなよぅ」
こいつの目は相当なものだ。
無と思われたドーナツの穴を、『有』にする能力。というか、無にしか見えない物を視てしまう能力。曲がりなりにも、個々の能力を生かした戦術を見出すキッカケを得られるというのなら、普段ロンメルに隠れがちな隊員達の経験値も上がるというものだ。
なるほど軍人には向かないが、出自の厄介さを差し引いても軍には置いておきたい重要人物。隠している能力値があっても見破ると言うのだから……私と話したいなどと言ってきたのだろうが。むしろ隠された能力があるのなら知りたいところだ。
「ねぇねぇ、フォーゲルくんの能力にさ『鋼鉄の社畜』ってあるんだよ。僕こんな数値初めて視た! んでぇ? 何を隠してるんだぃ? 錬金術でも使えるのかなぁ?」
「ああ、連勤はよくしてたけどな。88連勤とか」
「88mm口径の武器ってこと?」
「あー、まぁそんな感じだ。その向こうに地獄が見える」
「フォーゲルくんって時々面白いこと言うよねぇ」
疲労故に妄言を吐いたと思われたらしい。
88連勤か、それは野暮だ、大っ嫌いだ。
訓練明けの疲れた身体に甘いもの。
目も胃袋も心も満たされる甘いもの。
食材召喚——卵、小麦粉、バター、きび砂糖。ポリ袋に入れて捏ねて生地にする。
ストレスがマックスになるとタルトが作りたくなるらしい。そこの所は前世となんら変わらない。隊員達が就寝前のわずかな自由時間となった間に、こっそりとキッチンを借りにいく。
ヨーグルトベースのムースを作り、ブルーベリーを乗せる。仕上げにナパーム……ではなくナパージュを塗ればツヤツヤに光ったブルーベリータルトの完成だ。
「わぁ綺麗! 宝石みたいだねぇ〜」
「ゲッ、ハインケル技師……」
「フォーゲルくん、軍人ぽくないって言われない? そんなガッツある軍曹殿が、可愛らしいケーキなんか作っちゃってさぁ。それが所謂、部下に慕われてる秘訣?」
「はぁ……」
いまいちこのハインケルという人物が読めない。
気絶させて部屋に運んだら、次の日はケロッとして普通に現れた。相変わらずチップスかチョコレートしか食べている姿しか見ないが、仕事はちゃんと(むしろ過激気味に)やっているようなのでなんとも言えない。
多少過激だが人間で遊んでいるようにも見えない。まるで、本当は仲良くしたいのに人との接し方がわからない子供のようだ。
「えっと。食べますか?」
「いらない」
スッとその目から光が失われた。
数秒前にはまるで宝石でも見るかのように話していたというのに。
がりがりと首元を掻きながら、彼は白衣を翻して去っていく。
「同じものが食べられない人間には、その悦びなんて知り得ないんだよ」
そう言う彼の表情は、どことなく苦しそうだった——。
『
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