落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、

 ハッタリも、ほどほどにすべきであると今の私であれば進言したであろう。そう、数日前の自分自身にだ。然し戦場という命の綱渡りを四六時中しているような場所では、業務上ハッタリをかますというのは至極当然の行動なのであります。

 いかにして、倍以上ある敵戦力の戦意を削ぐか。恐怖心とは時として抑制力ともなります。無駄な抵抗も、体力及び弾薬の消耗も最小限に留め、双方死傷者は少なくあればなお良し。気分は何度も申し上げますが島津、又はアルゴンヌの森、部隊長自らが不毛な作戦だと諦めの様相では部下の士気も下がりっぱなしですからね。いけるであろうと鼓舞はいたしました、ええ、私とてミンチになりシュニッツェルの丘の一部と呼ばれ生涯を終えるのは真っ平御免でしたから。


 ——早い話が、前例を作ってしまいました。

 何がって? そう空挺団です。

 航空機が輸送や爆撃にだけ使用されている現時代において、早々に敵戦地の中央及び背後に出没できる……否、降下し即作戦決行を可能とする部隊。

 そんなものがこの世界にはまだ存在しなかったというわけですね? 航空観測手はいるのに、どうしてそこに思い至らなかったのか。

 本気でArmy 82nd All Carbohydrateとか結成されそうで震えております。既に遊撃中隊長という肩書きをいただいておりますし、働き蟻アーマイトに至っては完全に遊撃隊扱いです。然しながらそこまで所属部隊を重要特殊部隊化したいとは思っておりません、ほどほど、そう何事もほどほどが良いのです。


「さすがです、フォーゲル! またしても先見の明を以てして、予想だにしない成果を挙げられましたね」

「い、いやこれは私ではなくハインケルが」

「ん〜ボクはただ操縦しただけだよぉ。他国籍機で越境はマズいからと、皆への指導と作戦の発案したのはフォーゲルくんじゃん、謙遜しないしない」


(やってしまった……っ!! しかも私自身はマトモに降下したわけでも無いというのにか!?)


 私なぞ生き残ったその他大勢の兵の方でいい、ヨーク軍曹たるならお前の方だぞロンメル。

 無事に国境付近への降下を完遂、全員無傷。故に航空機もギリギリのラインで領空侵犯扱いとはならず、国境警備部隊との連携を以て友好的に借用した航空機を基地へ誘導、そして捕虜扱いのパルメザンのメンバーも全員が無事に基地内へと収容された。

 今後の会合で、彼らを証人として優位にロングブーツとの友好関係・・・・が築けることを願いたいものだ。


 参謀本部からも、快進撃のような今回の進軍について、データを提出、及び海軍における空挺部隊の発案を求められました。非常に、非常に辞退したいです。ザワークラウトが帰還早々お父上に久々に元気にご報告の電報を打ったらしいです。海軍からしてみれば敵艦隊の上に降下できる部隊なぞいれば、正直現在停滞している海上戦に一石を投じられる事になりましょうから、眉唾物でも実態を伺ってみたいというもの。

 お父上に認められたい小娘としては、何がなんでも会話の継続と自身の有用性を示したかったのでしょう。わからんでもないですが、私が望んでいたのは休暇であって褒賞や昇進ではなかったのであります。

 断れば軍法会議でしょう。ええ、本物の首が飛ぶのは避けたいですからね、私も気合いの入った一礼と共に出頭を拝命したのであります。

 実用化はなんとかして避けたい次第であります。我々帝国民及び、士官候補生殿は少々ふくよかでございますので。空挺部隊訓練の教導なんて任された日には、胃ではなくリアルに身体に風穴が開く可能性があるのです。そんな思いはなるべくなら二度とごめんでございます。


 世の中には三つの坂が存在すると言います。

 上り坂、下り坂、そして「まさか」。そう、まさかの方を引いてしまったのであります。

 適当に飯食って生き延びていたい。権力とはお近づきになりたくはない。平々凡々、私のようなものにはそれが一番なのであります。

 結果として、熊蜂ヅァイコローパの連中もほぼ死傷者なく撤退することができました。置き去りではなく、しっかり後方及び本国との連携が取れていたおかげです。進軍停止命令違反が槍玉に挙げられてはいるものの、あの無茶苦茶な進軍のおかげで彼らが無事帰還できたと言っても過言ではない。指示通りの行動を最低限基準にしてはいたが、やはり後退ペースは我々の希望速度の7-6割であったらしい。大暴れしといてよかった、である。


 それが——全て裏目に出るとは何事か。

 貴族位を持つ軍部の方々からは、散々なる評価をいただいております。やれそこまで攻め入ったのなら都市占領まで完遂してこいだの、進軍停止命令に背いたがため後方部隊の進軍が追いつかずに、結果部隊存続が危ぶまれた故に隙をぬって潰走してきただの。愛国心が足りないだの、ハインケルとの癒着だの。漬けるのは漬け物だけにしてほしい気分だが、どうにかして我々にイチャモンをつけたいらしい。

 ——彼らは本当に戦争がしたいのであろう。国家間の衝突、押して戻され、の継続した戦況。これが好ましいとは全く思わないが、ここで帝国が力を誇示したところでどうなるかの先は読めていないのだろうか。説明したところで、平民以下の身分の兵の言葉なぞ聞く気もないだろうというのは分かっているのだが。

 毎日チートディの皆様には、チートが付与されているのでしょうか。いえいえ、付与されているのは代謝されずに身についた糖質のみでございます。

 であれば、大戦果を手放しに臨むのは、少々自信も摂取カロリーも過剰というもの。


 トーストのバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例するらしい。我々の地上降下については、ものの見事にバター側から着地してしまったようだ。望みもしない結果ほど、どうしてそうなった……の言葉と共に訪れるのが世の常だ。高級カーペットでも、3秒ルールが適用される世界であってくれと願う。

 お呼び出し項目が増えてしまったようだ。まったく、前線から下がれば過度な労働からも撤退できると思いきや、そうは問屋がおろさないらしい。

 美食は、時として剣よりも多くの人命を奪うのです。さぁ、この世界における国家総統及び、参謀長、海軍大将は——果たして道理の通ずる人物であるのでありましょうか。


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