『ほうれんそう』は徹底、ひったひたのお浸しにすべし
西へ東へ、と。営業周りも忙しい事ですね。全くもって、遊撃部隊とは名ばかりの何でも屋と化しております
さあ、いよいよを以てして東部戦線ならぬプロテイン共和国との最前線へと投入である。なぜ新米尉官を山ほど抱えての戦線か、ようやく理解が追いついた。
——奴らは、武器を善しとせず。その肉体での肉弾戦を大義名分としている。
すまない、言葉は理解できたがちょっと意味がわからない。
己の肉体美を極め追い求める事は自由であるが、それをすれ違っただけの街中の人や、早朝の散歩の為に出歩いた方々に突然見せるのはテロと同義である。
早い話がなぜ上裸だ。双眼鏡を三度覗き直してしまったぞ。
「あ、あんな鍛え上げた兵に勝てるはずが……」
「あれに挑めと言うのですか!?」
……自軍の兵達の横っ面を全て叩きたい。
お前らが手にしているのはフライパンや鉄兜も貫通する銃弾を持つライフルだぞ? ムッキムキの戦線にビビり散らかして、それを忘れる程度のオツムに警鐘を鳴らしたいレベルだ。
追従させてきた皇国の捕虜部隊も記録映像を視て絶句している。まあそうだろうな、ちょっとよくわからない光景だろうな。
「うっへぇ、僕なんかよくわかんないけど胃もたれしちゃう」
「ハインケル、チョコレートの食べ過ぎでは? それに貴方、大事な作戦会議中にチョコレートを食べないようにと何度言ったら」
「べっつに、僕はそれでも真っ当な意見を提出するでしょぉ〜。無問題、無問題。胃もたれっていうのはこの黒光り集団だよぉ、どうしたの〜めっちゃ日に焼けてんのに歯は真っ白じゃん」
「……自身の追い求める姿をひたすらに追求した果てを、お前らが馬鹿にするな。だから戦争なんぞしてるんだぞ」
そんな事より作戦だが——そう話を押し戻す。
「敵軍の価値観にすら寄り添う、なんたる高尚な姿勢……っ」とかなんとかロンメルが呟いていた気がするが無視させてもらう。
単純に、それぞれの目標に合ったトレーニング指導と栄養学のプログラムを組む実習とかやってたんでね。自分はそうはなろうと思わないが、あの身体を維持するためにどれだけのコストと努力をかけているのかはわかってはいるつもりだ。だが——。
「いいか、極端に脂肪を削ぎ落とした上でパンプアップした筋肉というのは、実際の瞬発的な攻撃力や持久力に劣る。そういった訓練の上で出来上がる物ではないからだ」
「ではじわじわと面で攻める継続的な攻撃……この場合は砲撃ラインで徹底的に押し戻す作戦でしょうか」
「それでいいと思う——ってここまでちゃんと議事録は取れているか、ザワークラウト?」
「ふぇっ? あっ、んっと、取れてると思います。後でフォーマットに直して清書しますね。あと教官、徹底的って具体的に何センチ後退させればいいんですか?」
「……」
本人の能力が圧倒的後方支援向き、及び広報向きではないかとの判断から、記録係を一任してみた。しかし持ってくるノートは山のような量なのに、バインダー上の紙にしかペンを走らせていないとはどういう事だろう。
あとフォーマットに直さんでいい。前線でわざわざパソコン業務をさせると思うか。
「イェーガー、砲撃班の練度はどうだ?」
「概ね良好です。皇国兵の捕虜を現在ウチの班の後方にあたらせてますが、さすが砦の防衛を担っていただけあって練度は新米どもと段違いです」
う、うん。ちょっと言い方に棘があるぞイェーガー。
初日からバナナ娘に「銃で人とか撃てません〜、でも敵は撃っていいんですもんね」とかほざかれたのが相当キテいるらしい。あとずっとロンメルの補佐がいいとお願いされるのにもキテいるらしい……非常にお察しする。
彼に捕虜隊を一任しているのは、彼の能力のおかげで背後から一斉に反乱を起こされる恐れがないからだ。それにまさに言う通りといったところで、機械面で若干優れている皇国の兵は銃撃戦に長けている。
勿論預けっぱなしという訳でもない。連日
「いいか、ザワークラウト。本日の会議での作戦内容を、全班及び全班指揮下の
「はい、了解ですっ」
やる気はあるが逐一不安である。
「フォーゲル、少々過保護なのでは?」
「そうか……? いやまてロンメル、ザワークラウトだぞ。一から十まで言わんと奴は理解せん上に、斜め上からの行動が多すぎる」
「まぁ……それはわかりますが。一度くらいドカンと失敗させて反省させるのもありでは」
「それもわかるんだロンメル、ただ——前線でドカンと失敗されてみろ。誰がその尻拭いをするんだ」
「まっ、我々しかいないでしょうね。少々新人に手を焼いてアワアワしているフォーゲルが見られるのも、私としてはおいしいのでオッケーです。お任せください、バックアップはこのロンメルが」
「ああ……頼りにしてるぞ」
なんかもう胃が痛い。補給線への伝達を頼んだら「ちょっと節約したほうがいいかなと思って」と弾薬を三分の一にカットしようとしたり、色々とザワークラウトはズレている。
『報・連・相』はあらゆる組織での必須かつ基本事項だ。報告もなければ相談も無し、いつの間にかやっていて連絡もなし——は本当にタチが悪い。
しかし、自分が善かれと思ってやっている事であるから「報告と相談をしろ」と言えば「どうして先に注意されるのか」とあからさまにむくれるのだ。ザワークラウトだけでなく、この新人達の傾向はなんとかしたい。
多くの新人兵が望むような上官(主にロンメル)との浸透した仲は別にどうでもいいが、報連相だけはしっかりと浸透していただきたい。
あー、今日のメニューはほうれん草のおひたしにしよう。じゅわっと噛んだら出汁の味が染み渡るようなやつ。鉄分と各ビタミンも豊富でまさに兵達には必須の栄養だろう。皇国の連中も喜ぶはずだ。
そんな時——。
ブルジョワ層に合わせ、隊の中でも魔導PDA(魔力を主電源とする携帯端末)が支給され始めた。移動中も足の速い班に伝達を急がせる必要や、無線の電波を必死に合わせる手間が省けて助かる時がある。
その中に皆の中で流行っている短文投稿アプリ『フリッター』と言うものがある。まあ想像ついただろうが、開発者はハインケルだあの天才め。何世紀先を行くつもりだ。
「皇国兵の人、捕虜なのに人数分あんぱんしっかり取っていくんだもんなぁ。自軍の分が減っちゃうんだから、ちょっと皆さま分け合っていただけると助かります」
……投稿者はザワークラウトだ。
良心に呼びかけたつもりだろうが、完全に使い方を誤っている。
「ザワークラウトぉおおおおおお!!!!!!」
秒で私の雷が落ちたのは言うまでもない。
削除して無かった事にするのはあるまじき行為だ。
即刻駐屯地内で放送線を使って謝罪し、本人には文章で謝罪させた。
「お前個人の発言じゃない、それが我が国家、我が軍の人格として見られることを重々にして意識しておけ!」
「呟く前に相談したほうがよかったですか?」
「それ以前の問題だ、しかし相談は常にしろ」
「んっと、じゃあフリッターの使用に関してお教えいただく時間をこのコマでお願いします」
「俺のスケジュールを先取って決めるんじゃない!」
迅速な謝罪と完璧な言葉遣いによって、駐屯地の中で何か暴動的な物が起こる事は一切無かった。
しかし「あの鬼教官に平然と言い返している」とただのど天然お嬢様ザワークラウトが一部から恐れられ始めたらしい、とケラケラ笑いながらサワークリーム味のチップスをバリバリと食べるハインケルから報告された。
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