第47話 大賢者、鬼ごっこする

「それにしても、こんなすごい船まで作れるようになったなんて、この世界も進んだんだねえ」

「男の浪漫が詰まってるぜッ!」

「私は女なのだが……。まあいい。お前たちが死んでから三十年以上も経っているからな。私の研究も色々と進んだぞ」

「もうこういう船で瘴気領域も自由に行き来してるの?」

「いや、これは試作機の第1号だ。今回の探索が成功すれば、量産の検討に入るだろう」

「なんだかわからないが、すごいんだなッ!」

「ああ、自信作だ。中も見てみるか?」


 自慢の発明を誉められて、ミストがご満悦だ。

 ヒロトとツカサは、ミストに連れられて地上帆船の中へと入っていった。

 俺は俺で、ちょっと気になることがあるので外に残る。


「ねー、ヒツジ先生-。なにしてるの?」

「うーん、なんだか不思議な気配を感じてねえ」


 シロちゃんが噛み砕いた金属メイドの残骸を、拾った棒でガシャガシャと突っつき回していたら、メリスちゃんがやってきた。


「このゴーレムさん、ヒツジ先生のぽわぽわみたいなかんじがする?」

「おお、やっぱりメリスちゃんは天才だねえ。あっ、やっぱりあった」


 残骸の中に目当てのものを見つけ、それをどんぐりの蹄でつまみ上げる。

 蹄の間にあるのは、米粒ほどの大きさの真っ黒な石だった。


「……それ、なに?」

「これは魔石だねえ。師匠の家で、俺が食べさせられたやつと一緒だよ」

「……おいしい、の?」

「俺以外は食べるとお腹を壊しちゃうだろうねえ」


 俺とメリスちゃんがわちゃわちゃしていると、シロちゃんもやってきた。

 きらきら光る黒い魔石を、興味津々に見ている。ドラゴンはたいてい光り物が好きだからなあ。シロちゃんも宝石が好きなんだろうか?


「魔石は、ぜんぶのゴーレムさんに入ってるの?」

「たぶん入ってるねえ」

「……ぜんぶ、集める?」

「うん、折角だからねえ」

「……手伝う」

「あたしも手伝うっ!」

「二人ともありがとうねえ。よーし、そしたらみんなで競争だ!」


 俺たち三人は、それぞれ散って金属メイドをガシャガシャとやりだした。

 なんだか貧民窟スラム時代のゴミ漁りを思い出す。色々としんどいことも多かったが、たまーにお宝が見つかるとテンションぶち上がるんだよな。お宝と言っても鉄貨が何枚か入った財布とか、偽物の宝石とか、せいぜいその程度のもんだが。


 小一時間ほどガシャガシャしたところで、すべての残骸を漁り終わった。

 結果は俺が16個、メリスちゃんが7個、シロちゃんが5個だ。さすがにこの勝負は俺に分がある。なんとなくどのへんにありそうか、魔力の気配を感じ取れるからな。

 それにしても、シロちゃんはあの金属メイドをひとりで30体近くバリバリむしゃむしゃしてたのか。やっぱりドラゴンの戦闘能力は並じゃない。


「よーし、じゃあ、みんなでこれを分けようか」

「ヒツジ先生にあげるー」

「……シロのも」


 メリスちゃんとシロちゃんが、躊躇なく魔石を差し出してきた。

 ふたりとも優しいねえ。ありがとうねえ。

 ゴミ漁りで得たものは、仲間同士で平等に分けるのが決まりだった。

 でも、どうしても欲しいものや必要なものは融通しあっていた。


 俺は、ふたりの思いやりがこもった魔石をありがたく受け取る。

 とはいえ、はじめての冒険の記念品だからなあ。きれいに磨いてペンダントトップにでもできないかな? これだけじゃ小粒すぎるからガラスにでも封入して……うむ、あとでミストに相談してみよう。


「いやあ、思ったより広かったね。お風呂まであるからびっくりしちゃった」

「ははは、快適性にはかなりこだわったからな」

「オレは大砲を撃ってみたかったぜッ!」

「意味もなく砲を撃てるか。それにヒロトは魔法が使えんだろう」


 そんなことを考えていたら、船内見学ツアーを終えたミストたちがタラップを降りてきた。


「む、すまん。待たせたか……って、セージ、お前が持ってるのは何だ!?」

「あっ、魔石。あのメイドの中に1個ずつ入ってたよ」

「そんな軽々しく……まあいい。ちょっとこっちに来い」


 俺はミストに引っつかまれ、船の影で小声で囁かれた。

 あっ、熱い息がかかってですね、く、くすぐったいであります。


「バカを言ってるんじゃない。それは、どれくらいの魔力がこもってるんだ?」

「まだ取り込んでないから当てずっぽうだけど、数日分くらいかな?」

「それでも、その数となればバカにできん。それにこれは……大きな塊から削り出したような加工の跡があるな」

「へえ、こんなちっこい欠片からそんなことまでわかるのか。やっぱりミストはすげえな」

「う、うるさい。その程度なら朝飯前だ」


 あっ、ミストが頬をかいてなんか照れてる。貴重なシーンだな。

 俺はヒツジさんアイをパシャパシャパシャッと輝かせてその瞬間を激写した。


「おいこら、セージ、いま何をした!」

「記念撮影?」

「勝手に撮るんじゃない!!」

「えー、別にいいじゃん。可愛かったし」

「可愛いとか言うんじゃない!!」


 怒ってチョップの姿勢に入るミストを、再びパシャパシャパシャッと激写する。ヒツジさんアイには映魔機をデチューンした静止画像の撮影機能があるのだ。

 これでどんな瞬間も見逃さず、未来永劫保存できるぜっ!


「資料撮影のために搭載した機能だろうがっ! そんな目的のためにつけたわけじゃないぞ!」

「えー、わたくし、大賢者といたしましてはー、その、旅の途中の、旅の経過をですね。その隊員の素顔、有り体に申しまして素の表情、そういったものの記録も非常に重要かつ見逃せない貴重な資料かと判断する次第でありまして――」

「なんだその平民会議員のような口調はっ! いますぐ記録を消せ!」

「えー、それにつきましては慎重な検討に、大変注意深い検討を重ねましてー、えー、非常に多岐にわたる要素の検討についての協議が、はい、すなわち相談、諸機関への調整が求められることであり――」

「ぐだぐだ言ってないで消せっ!」

「お断りだねっ」


 俺は十頭身モードを解放し、ミストのもとからダッと逃げた。

 ミストが必死な顔で追いかけてくるので、俺は全力で駆けながら首をグリッと180度反転して激写する。


「なにあれ……キモ……」

「ちょっ、あーしらの方に来るんじゃねえよっ!」

「ハハハッ! 鬼ごっこなら俺も参戦するぜッ!」

「わー! ヒツジ先生、足はやーい!」

「……シロも、やる」


 俺とミストの追いかけっこは、なし崩し的に全員参加の鬼ごっこに変わっていた。

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