第46話 大賢者、船に戻る

「っていうかさぐえー、ミストさんやぐえー、イエローが……ツカサが女にぐえー、なってることに驚きはないわけ? ぐえー」

「ん? ああ、そうか。性格も話しぶりも変わっていないから違和感がなかった。頭頂の毛も一緒だし、顔立ちの雰囲気も近いからな」


 カレー談義が終わらなそうなので、俺はメリスちゃんに締め付けられながら口を挟んだ。

 ちょっ、メリスちゃん。魔力の扱いが上手くなったせいか力も強くなってない? 面白がってチョークを決めるのはやめようね? ぐえっぐえっぐえっ。


「ツカサはなっ! 転生するたびに男になったり女になったりしてるんだぜっ!」

「ボクとしてはずっと女の子の方がかわいくていいんだけどね。ヒロトもたまには女の子に生まれてみたら?」

「おうっ! じゃあ今度転生するときはセイギネス様に頼んでみるぜっ!」

「軽いなあ……」


 ツカサは性転換の常習者だったらしい。

 口ぶりから察するに、望んだものではなく勝手に決められているようだ。一方のヒロトは男にしか生まれたことはないようだ。この熱血正義バカが女になっていたら……うーん、想像もできん。セイギネス様とやら、ヒロトは何があっても女にはしないでくれ。


 なお、セイギネスというのはヒロトたちに加護を与えている女神的存在だ。俺の転生にも絡んでいるかもしれないが、名乗りもなかったし加護ももらってねえしなあ。勘にはなるが、別口の存在な気がする。


「ねえねえ、おねえさんは男の人だったの?」

「あっ、ごめん、挨拶が遅くなっちゃったね。ボクは黄馬おうまツカサ。前世は男だったんだけど、いまは女の子だよ」

「へー、おもしろーい! あたしはメリスだよっ! よろしくね!」

「こちらこそよろしくね、メリスちゃん」


 ツカサが軽くかがんでメリスの金髪を撫でる。


「それで、セージたちはどこから来たの? パーティはこれで全員?」

「いや、別の場所に仲間を残してる。さっきのメイドのこともあるし、一旦引き返して合流するか?」

「シロ殿もいるし戦力的な心配はないと思うが……念のため状況の共有はしておいた方がいいな。ヒロトたちも来れるか?」


 ヒロトとツカサがうなずき、俺たちはひとまず船へと戻ることにした。


 * * *


【……セージ、おかえり……ばりばり】

「た、ただいま」


 地上帆船へと戻った俺たちを出迎えたのは、竜化したシロちゃんだった。

 その巨大な顎に金属メイドを挟み込み、ナイフのような牙でバリバリと噛み砕いている。あたりを見回していれば、原型を留めない金属メイドの残骸が無数に転がっていた。


「こらこら、シロちゃんや。そんなもの食べたらお腹を壊すよ?」

【……食べては、ない。噛んでる、だけ】


 そういうと、シロちゃんは金属メイドをぺっと吐き出し、銀髪をなびかさせる少女の姿に戻った。


「……でも、歯ごたえ、よかった」

「ガムの感覚だったんだねえ。歯の隙間に刺さったりしなかった?」

「……だいじょうぶ」

「ならよかった。それに、みんながいない間に船を守ってくれてありがとね」

「……楽勝」


 俺はヒツジさんアームを伸ばし、シロちゃんの頭をぽんぽんした。

 シロちゃんは頬を染めてはにかんだ。うふふ、かわいいね。照れているのかな?


「すっげえな! お前、ドラゴンなんだなっ! 俺は天王寺ヒロト! 英雄の人って書いてヒロトってんだ! よろしくなっ!」

「……誰?」


 ヒロトの暑苦しい圧に押され、シロちゃんが半歩下がる。

 こら、女の子を脅かすんじゃないよ。お前は存在するだけで周辺の気温と湿度を上げる存在なんだぞ?


「ツレがびっくりさせてごめんね。ボクは黄馬おうまツカサ。セージとは前世で一緒に旅してたんだよ。君の名前は?」

「……シロ」

「シロちゃんね。今後ともよろしくね」

「……よろ、しく」


 ツカサが差し出した右手をシロちゃんが握る。

 むぅ、この人たらしめ。イエローと呼ばれていた頃も、人当たりがいいから初対面の印象がダンチでよかった。戦士なのに……戦士なのに……勇者パーティの戦士って、普通は脳筋キャラが相場なんじゃないの?


「おっ、ヒツジ野郎、もう帰ってきたのかよ。そいつらは誰だ?」


 上空を飛んでいたピュイたちが降りてくる。

 瘴気領域では外を飛ばなかったから、ストレスが溜まっていたらしい。哨戒と運動不足解消を兼ねてその辺を飛んでいたそうだ。

 ヒロトとツカサが、ピュイたち魔土怒羅権マッドドラゴンと自己紹介をする。


「ハーピーを仲間にしてるなんて、相変わらずセージは無茶苦茶やるなあ」

「あーしらはヒツジ野郎の仲間じゃねえよ。ダチのメリスが頼んできたし、ミスト姐さんにも世話になったからな。あーしらは仁義を欠かさねえんだ」

「仁義は大事だなッ! 正義を貫くためには、仁義は通さなきゃダメだぜッ!」

「正義はわかんねえけど、兄さんはなかなか話がわかるじゃねえか」

「おうッ! 俺たちは仁義仲間だぜッ!」


 ヒロトがよくわからない造語を作り出してハーピー連と意気投合している。一人ひとりとがっちり握手をして、何やら言葉を交わしているようだ。

 あっ、ハーピーのひとりがヒロトに熱視線を向けている。やめろ! 秒で女を落とす無自覚イケメンムーブほんとズルいからマジでやめろ!

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