第43話 大賢者、メイドさんに追われる

「ゴ主人様、抵抗ハ止メテ、大人シクシテクダサイ。罪ガ重クナリマス」

「さっき死刑って言ったじゃん!? もう極刑確定じゃん!? これ以上重くしようがないじゃん!?」

「ゴ主人様、抵抗ハ止メテ、大人シクシテクダサイ。罪ガ重クナリマス」

「話が一切通じねえ!」


 俺はヒツジさんボディを縦横無尽に操作しつつ、メイドさんゴーレムの猛攻をかわし続ける。

 動きは素早いし、ぎゅいーんと高音を立てて回転するドリルの威力も脅威だが、幸いにして攻撃が単調だ。フェイントを使わずこちらに向かって直線的に仕掛けてくるだけだから、防御に集中すれば問題なく避け続けられる。


 へへへ、新型ヒツジさんボディの機動力を舐めるんじゃあない。

 何度目かの攻撃を避けると、勢い余ったメイドさんドリルが床を砕き、コンクリートが弾け飛ぶ。


「ゴ主人様、器物損壊罪ガ追加サレマシタ。コレ以上、罪ヲ重ネルノハヤメマショウ」

「濡れ衣っ!?」


 罪が追加されたせいなのか、一度床を砕いたせいで吹っ切れたのか、ますます動きが荒ぶっている。

 四つん這いになってドリルで走りはじめた。のっぺらな顔面が4つに割れ、その中央からまたドリルが飛び出してくる。


「器物損壊罪追加、器物損壊罪追加、器物損壊罪追加、器物損壊罪追加……」

「だからやってるのはお前だしっ! それにどんだけドリル好きなんだよっ!?」


 俺はときにバック宙をし、ときに手足を伸ばし、ときにタップダンスやヘッドスピンを決めながらメイドさんゴーレムの猛攻をかわし続ける。

 うーん、めんどくさいな。いっそ魔法でぶっ飛ばしたくなってくるが……いやいや、短気を起こしちゃいかん。じゅうぶん時間も稼いだし、俺も逃げるとしよう。


「あばよっ! メイドさぁ~~~~ん!」


 俺はビブラートをたっぷりきかせた捨て台詞を残すと、びょいんと足を伸ばして自動ドアの隙間から脱出する。

 すると、即座にばりーんとガラスを突き破ってメイドさんゴーレムが追ってきた。


「時間稼ぎと誘導、よくやった」

「まあ大賢者的にはこれくらい余裕的な?」

「調子に乗るな。《地雷光》」


 地面に魔法陣が輝き、稲妻の網が半球形に展開する。

 その中に閉じ込められたメイドさんゴーレムが、釣り上げられた魚みたいにビチビチビチっとなって全身のパーツの隙間から黒煙を吹いて停止した。


「ひさびさの連携だったが、きれいに決まったな」

「はっはっはっ、なんでも出来る大賢者セージ様をなめるなよっ!」

「はぁ、少し褒めるとすぐこれだ」

「ヒツジ先生も、ミスト先生もかっこいー!」


 俺とミストの完璧な連携に、メリスちゃんがぱちぱち手を叩いて喜んでいる。

 へへへ、伊達に何年も一緒に旅はしてなかったぜ。打ち合わせなんかしなくてもこれくらいのことは即興でできる。


「……ガガッ! コチラ、機体番号0c26f……緊急警報要請……対象:識別不明ノ、ゴ主人様、3名様、速ヤカニ、ゴ案内……」


 煙を上げているメイドさんゴーレムが今際の際に何かしゃべってる。

 続いて、遺跡のあちこちからぎゅいーんぎゅーんと何かが高速回転している音が聞こえてくる。


「あー、ミスト、嫌な予感しかしないんだが、どう思う?」

「奇遇だな、セージ。私も同感だ」

「なになに? なにかあるのー?」

「うーん、メリスちゃんはとりあえずすぐ走れるように準備お願いね」


 俺たちが周囲を警戒しつつ、じりじりと新品の建物から離れていると――


「オカエリナサイマセ、ゴ主人サマ」「オカエリナサイマセ、ゴ主人サマ」「オカエリナサイマセ、ゴ主人サマ」「オカエリナサイマセ、ゴ主人サ「オカエリナサイマセ、ゴ主「オカエリナサイマセ「オカエリナ「オカエ「オカ「オ「オ「オ「オ「オ「オ「オ「オ「オ「オ「オ「オ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 遺跡中から湧き出してきたメイドの群れが俺たちに向かい、四つん這いでカサカサ走り出してきた。いや、これはもうメイドとかそういうやつじゃねえよ。金属製の不快害虫だよ。ゴキメイドだよ。絵面がきっついよ。顔面とか十字に割れて真ん中からドリルが突き出してるし、そんなんがカサカサ押し寄せてくるんだよ? ちょっと無理じゃない?


 そんな愚痴を内心でつぶやきつつ、ゴキメイド軍団の攻撃をぴょこたんぴょこたんかわしながら殿しんがりをつとめる。ミストが迎撃できればいいが……いかんせん術式を練る余裕はなさそうだ。


 船まで戻ればなんとでもなりそうだが、ゴキメイドたちの動きはそこそこ速い。追いつかれそうになったらミストに怒られるのを覚悟で魔法をぶっ放すしかあるまい。


 俺がそんな覚悟を決めたときだった。


「うぉぉぉぉおおおおっ! 正義を愛する心が燃える! 魂が、邪悪を倒せと紅蓮に染まる!」


 どっかで聞き覚えのある暑苦しい絶叫が聞こえてきたのは。

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