第42話 大賢者、遺跡に着く
スナモグリを蹴散らしながら進むことさらに1週間。
地平線の先に人工的な直線が見えてきた。砂塵で霞んでいるが、距離が詰まるにつれてくっきりとしてきた。王都の雰囲気に似ているな。アキバかどうかは確信が持てないが、なんらかの遺跡であることは間違いないだろう。
「瘴気がだいぶ薄まってきたな。遺跡に入ればマスクなしでも外に出られるだろう」
「おっ、いよいよ冒険本番のはじまりだな」
ミストが操舵室の計器で瘴気の濃度を確認している。
太い街路を見つけて地上帆船を遺跡に乗り入れた。そこで停船し、探索用メンバーの組分けを発表する。
第一陣は俺、ミスト、メリスちゃんの3人。
シロちゃんとピュイたちは船に残ってお留守番だ。
師匠の話によるとアキバ遺跡に危険な魔物はいなかったそうだが、戦力不在で船を放置するわけにはいかない。シロちゃんを護衛として残しつつ、ピュイたちには休憩してもらう。ローテーションを組んでいたから無休ってわけじゃないが、移動中はずっと風魔法を使っていたのだ。
「それじゃ、いざ出発っ!」
「あたし、遺跡ってはじめてー!」
「こら、メリス君。あまりはしゃぐと危ないぞ」
「そうだよ、メリスちゃん。危ないし、ぶんぶん振り回されると目が回るんだよ。ミストから離れずにゆっくり歩こうね」
俺の腕をつかんだメリスちゃんが辺りを駆け回る。
道路には亀裂が走ってるし、劣化した建物から落ちてきたのだろう瓦礫も多い。つまずいて転んでしまうかもしれない。心配していると、メリスちゃんは瓦礫をぴょんぴょん飛び越えてミストの元へと戻っていく。
あっ、田舎育ちだもんね。足腰は強いよね。毎度農家の子をみくびってしまい申し訳ございません。
「ふむ、何か妙だな。セージ、周辺の魔力におかしなところはあるか?」
「うーん、やけに濃いところと薄いところ……いや、新鮮な魔力と古い魔力が入り混じってるかんじ?」
「魔力に鮮度があるのか……」
「すまんが、俺も感覚的なものだから上手く説明できん。ところでミストは何が妙だと思ったんだ?」
「たとえばあの二つの建物を見比べてくれ」
ミストが指さす先には、ひび割れだらけの建物と、ほとんど劣化していない建物があった。後者なんて窓ガラスもほとんど無事だ。あんな状態の良い遺跡は見たことがない。
「まるで古い建物と新しい建物が混じってるみたいじゃないか?」
「たしかにそうだな……何がどうなってんだ?」
「ミスト先生ー! あたし、あのピカピカの建物に行ってみたい!」
「うむ、いつまでも道を歩くだけでは埒もあかん。メリス君の提案の通りにしてみよう」
劣化の少ない方の建物には、表札がつけられていた。
「ヒツジ先生ー、これってなんて書いてあるの?」
「古い言葉で『アキハバラ総合電脳工業社 外神田営業支部』だねえ」
「どういう意味ー?」
「うーん、少し予想が入っちゃうけど、大昔の大きな商会の支店って意味だね」
「へえー、むかしのお店屋さんって、大きかったんだね!」
「そうだねえ、20階くらいはありそうだねえ」
近づいてから見上げると、首が痛くなりそうだ。
ほぼ全面がガラス張りで、陽光を反射してきらきらと輝いている。
「古語の読み解きは本当に得意だな」
「師匠にみっちり叩き込まれたからなあ。ミストだってこれくらいは楽勝だろ?」
「まあな。ともあれ、入ってみるぞ」
「わーい!」
ガラス製のドアに近づくが、とくに何も起こらない。
師匠の家みたいに自動ドアが生きているってことはさすがになかったようだ。ガラス面に手を当てて、横にずずっとずらして隙間を作って入る。
中は広いホール状になっていた。薄暗く、奥まで見通せない。
経絡を操作して視力を強化してみると……むう、何か動く人影がある……?
「ミスト、気をつけろ。人影だ」
「承知した。メリス君は絶対に離れないように」
「わかったー!」
ミストが片手にワンドを構え、空いた手でメリスの手を握る。
「俺が偵察してくる。逃げろと言ったらすぐ走れ」
「承知した」
俺はどんぐりの蹄を引っ込め、足音を立てないように闇の奥へと歩む。
人影にある程度近づくと、奇妙な声がした。
「オカエリナサイマセ、ゴ主人様。社員証アルイハ、入館許可証ノ、ゴ提示ヲ、オ願イイタシマス」
「へっ、社員証?」
「来客ノ方デシタラ、あぽいんとヲ確認イタシマス。オ客様ノ国民番号、アルイハ入国許可番号。ソレカラ、オ約束ノ時間ト訪問先ヲ、オ願イイタシマス」
「あー、えっと、はじめまして。話せるんなら普通に話してもらえると助かるんだけど……。あ、私はセージと申す者です。旅の途中で立ち寄りまして、この地の風習などには疎いのですが……」
「残リ10秒以内ニ、国民番号、アルイハ入国許可番号ヲ、ゴ提示イタダケナイ場合ハ、不法侵入、不法入国、身分秘匿、敵性国間諜ノ疑イニヨリ、略式裁判ヲ開始シマス。残リ、2、1……」
ちょっ、途中の説明も含めて10秒なの!?
なんかやばい予感がひしひしする!
「ミスト、逃げろ!」
「承知っ!」
ミストがメリスを連れて建物から飛び出すと同時に、暗闇から人影が飛び出してきた。
鈍い鉄色の皮膚に覆われたその身体は、ところどころに青い光の線が走っている。無数の金属パーツで構成された手足は師匠のようにメカニカルだ。それとは対象的に、顔面には目も鼻もなくつるりとしている。
そして何より異様なのは――
――頭頂部には、フリル付きのカチューシャ。胴体には、これまたひらひらだらけのミニスカ衣装が着せられており……
「略式裁判開始。情状酌量ノ余地ナシ。ゴ主人様ノ死刑ヲ、開始シマス」
「メイドさんゴーレム!?」
両手の先にドリルがついた金属製のメイドさんが、闇を切り裂いてぎゅいんぎゅいんと襲いかかってきた!
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