第40話 大賢者、にゃんこを追う
「ちわーす。クロネコ商会ですにゃー。今日の分のお届けですにゃー」
「メェぇぇぇ~~~~」
「みぎゃー! また出たなヒツジ男っ!?」
俺は地上帆船の倉庫に現れる直立にゃんこを待ち構えていた。
歯をカチカチと鳴らしながら荷物を抱えたにゃんこを追いかけ回す。
「なんでそんなに目の敵にするにゃっ!?」
「お前がいると、俺のもふもふの価値が下がるっ!」
「言いがかりにゃー!」
「おい、遊んでるんじゃない。荷物の受け取りができないだろ」
俺とにゃんこが倉庫で戯れていると、倉庫にやってきたミストに首根っこをつかまれてぶらぶらされた。俺は手足を伸ばして抜け出そうとするが、最近では十頭身モードに慣れられたようで、絶妙にぶらぶらされて床に足がつかない。
「た、助かりましたにゃー。このヒツジ、本当にあの《大賢者》セージ様なんですかにゃ?」
「……残念ながら本当だ。これがほとんどで、極めてまれに低確率で賢くなることがある。賢さの振れ幅が大きいという意味で大賢者なんだ」
「そう、そうなんですにゃ……」
直立にゃんこが残念そうな視線を俺に向けてくる。
やめろっ! 俺を生物として格下に見る目で見てくるんじゃないっ!!
「食料その他、必要物資の補給。いつも助かっている。このバカのことは気にしないでもらえるとありがたい」
「できれば檻にでも閉じ込めておいてもらえると助かるにゃ……」
「その気持ちは痛いほどわかるがな。いつの間にか抜け出ているから拘束不能なんだ」
「や、やっかいですにゃ……!」
俺のヒツジさんボディは変幻自在だ。
どんぐりひとつが通る隙間があれば抜けられるのである。頭が通れば隙間を抜けられるというにゃんこよりも上位互換なのだ。
「それじゃ、受け取りにサインをお願いしたいんですにゃー。念のための確認にゃんだけど、回収物はありますかにゃ?」
「すまんが、今日も収穫はないな」
「謝ることはないですにゃー。今回の取引は投資の意味合いが大きいですにゃ」
「そう言ってもらえると助かるな。アキバ遺跡にたどり着いたなら、必ずや有益な何かを見つけ出してこよう」
「《
直立にゃんこの足元に魔法陣が浮かび上がると、一瞬の間をおいてにゃんこが姿を消した。
「あのなあ、セージ。クロネコ商会はこの旅の生命線なんだ。あんまりからかうなよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、口では文句を言っても、あいつの身体は喜んでいるからな」
「意味のわからんことを言うな」
俺は
飼っていたというか、野良にときどきエサをやっていた……って程度のことだが。あいつらは、本気で怒ると毛を逆立てるし、爪も立ててくる。なんやかんやで毎度の追いかけっこをあのにゃんこも喜んでいるはずだ。
「毎日定時に荷物運んでくるだけじゃ、あいつも面白くないだろ」
「それはそうかもしれんがな」
クロネコ商会の従業員の大部分を占めるクロネコ族は、極めて特殊な固有魔法を持っている。あらかじめ登録した場所に、距離を無視して瞬間移動できるというとんでもない魔法だ。
ただし、制限も多い。
荷物は両手に抱えたものと身につけたものまでしか運べないし、転送先は1匹につき1箇所しか登録できない。その上、瞬間移動ができるのは1日に1回だけだ。日没にリセットされるので、緊急事態に備えて夕方に定時配送をしてもらっている。日が沈めば、直後に足りない物資を再配達してもらえるからだ。
縛りがあるとはいえ、そんな便利な魔法だからクロネコ族の転移陣があるのは基本的に王侯貴族や大商人のところくらいだ。そんな大層なものがどうしてこの地上帆船にあるのかといえば……まあ、自分で言うのもなんだが、ミストと俺が主導しているというネームバリューのおかげだ。
草木もろくに生えていない荒野である瘴気領域には当然人の街など存在しない。クロネコ商会の協力によって、瘴気領域内での補給が実現したのだ。とはいえ、何匹も人員を割いてくれるはずもなく、たった一匹だけだが。
なお見分けはつかないが、師匠の家にやってきたにゃんことは別にゃんこである。
とはいえ、毎度追いかけるだけでは芸がないだろう。
明日の配送時間までに、魔導線を使って猫じゃらしでも作っておこうと俺は心の中で決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます