第32話 大賢者、進化する
「さてセージよ。ロケットパンチとパイルバンカーと機銃、どれがよいか決まったかの?」
「いや、そういう物騒なのはちょっと……」
「ウィズ殿、オプションは外付けの方が換装できて汎用性が高いのでは?」
「うむ、たしかに内蔵にこだわる必要はなかったの」
「あのう、俺の希望も聞いてくれないっすかねえ……」
ミストにむんずと運ばれた先は師匠の研究室だった。
機械油や燃料の臭いが入り混じったものが漂っており、工作機械と作りかけの何かでごちゃごちゃしている。なんとなく、ミストの研究室を思い出した。
「ともあれ、まずは魔導線とやらか。先ほど見せてもらったが、なかなか面白い性質じゃの。応用範囲が広そうじゃ」
「ウィズ殿ほどの方から称賛をいただけるとは光栄ですね。ミスリルを扱うのははじめてなので、基本的な性質などからご教示願えますか?」
ミストと師匠は短い時間ですっかり意気投合したようだ。
どっちも研究オタクだからなあ、話が合うんだろう。
「ふむ、それではまず銅と水銀との合金から試してみますか」
「割合を変えたものをいくつか作ってみるかの。鉄も加えたものも試してみたいのう」
「ええ、それも作ってみましょう」
ミストと師匠が小型の錬金釜に材料を放り込んで炎魔法で加熱している。
うーん、俺抜きでどんどん話が進んでいるな。俺の来た意味ってあっただろうか?
「魔力の伝導率を調べるには、お前の感覚で試すのが一番手っ取り早いからな。暇なら芯になる魔導線の設計図でも書いておけ」
ほう、俺の新型ヒツジさんボディの骨格設計か。
そういうことならちょっと試したいことがあったんだよね。
俺はミストから受け取った鉛筆を走らせ、紙の上にさらさらと設計図を書いていく。
魔道具づくりは専門じゃあないが、基本的なことは師匠から叩き込まれているのだ。
「一通り試料ができたぞ。試してみろ……って、何をぐるぐると落書きしてるんだ?」
「落書きじゃないって。これはだな――」
設計意図を説明すると、ミストと師匠がおかしげに笑った。
「なるほどのう、人体を模す必要はそもそもないのじゃからな。面白い発想じゃ」
「単純な直線の組み合わせより、耐久性も増しそうだ。セージにしてはいいアイデアじゃないか」
おお、好評だ。なんかひさびさに褒められた気がする。うれしい。
俺は喜びを表現するため、いつもよりも気合の入ったどんぐりタップを決めた。
ミストと師匠が、褒めたことを後悔するような表情になった。
* * *
数日後。
無事、ヒツジさんボディ改が完成したので小講堂を使ってのお披露目会である。師匠の家は、かつては数百人単位の人間が共同生活を送っていたことが容易く想像できるほど広く、いろんな設備がある。
俺は壇上に立ち、みんなに向かって深々と一礼する。
そして万雷の拍手を受けながら顔を上げ……万雷の拍手……あっ、拍手はないんすね。淡々と進める感じっすね。はいすみませんわかりました。
まず、見た目はこれまでのヒツジさんボディと変化はない。
だがっ、ヒツジさんボディ改は中身が違うっ!
俺はくるくるくるっと連続でバック宙を決め、続いて側転を繰り返して元の位置に戻る。
さらに一回バック宙をしたら、そのまま頭で着地して高速スピン!
そう、これはどんぐりタップを超える新必殺技、ヒツジさんブレイクダンスだ!!
「ヒツジ先生ー! すごーい!」
「……きれっきれ」
少女連は俺の華麗なダンスに感動し、素直に拍手を送ってくれた。
ピュイをはじめとするハーピー連は俺が動き回るたびにピクピクと反応し、いまにも飛びかかってきそうだった。猫か。
新開発素材を用いた魔導線骨格により、俺の運動性能は何倍にも跳ね上がっていた。
魔力の効率がよくなっただけでなく、全身にバネ型の金属線を通すことでその弾性を利用できるのだ。
そして、バネ型ということは、当然こういうこともできる。
「ふんぬっ!」
全身に力を込めると、手足や胴がびょいーんと伸びる。
小さな頭にすらっと長い手足。名付けてヒツジさんボディ十頭身モードである!
「ヒツジ先生ー! 変なのー」
「……ぷっ」
「ギャハハハ! なんだそれ、気持ち悪りぃ!」
おっ、ウケてるな。
俺は調子に乗ってそのままロボットダンスをはじめる。初見のみんなはもちろん、事前に見ていたミストや師匠も腹を抱えてうずくまっている。ふふっ、大勝利だ。
ただ、まだ続く演目がある。
俺はしゅびっと手足を縮めてノーマルヒツジさん形態に戻ると、横の木箱から小道具を取り出した。
ワイバーンジャーキーと、師匠謹製の
俺はジャーキーをあむあむと味わい、エールで流し込む。うんメェぇぇ~。
「ヒツジ先生、ごはん食べられるようになったの?」
「うん、先生もね、ごはんが食べられるようになったんだよ」
「すごーい! じゃあ、いままで食べられなかった分も食べなきゃね!」
「そうだねえ。色々食べたいねえ。でもねえごほっ、メリスちゃん、次から次にごほっ、お口にジャーキーをごほっ、詰め込まれごほっ、食べきれないごほっんだよごほっ」
小道具として持ち込んでいたジャーキーをすべて口の中にねじ込まれ、俺はようやくメリスちゃんから開放された。
「しかしよー、なんで急にメシが食えるようになったんだよ? メシの最中にじたばた変な踊りをされなくなるんならありがてえけどさ」
「それについては、わしから説明するのじゃ」
変な踊りとか言わないでくださいと口にしようとした俺を制し、師匠がうぃーんがしょんと壇上に上がってきた。
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