第27話 大賢者、ごねる

 第一回、黒竜公記念! リバーシ大会結果発表ー!!(SE:どんどんぱふぱふー)


■最終順位

・優勝:チーム魔土怒羅権マッドドラゴン

・2位:シロ

・3位:メリス

・4位:ミスト

・同率最下位:おっさん、俺


「っしゃあ! あーしらの優勝だねっ!」

「ハーピーさん、すごーい!」

「……メリスも、がんばった」

「ははは、なかなか白熱した戦いになったな」


 待て、どうしてこうなった? どう考えてもおかしいだろ? 俺とおっさんはガチ勢だぞ……? シロちゃんは経験者だからいいとして、リバーシのルールさえ知らなかったハーピーたちが1位で、メリスちゃんが3位……? ミストはね、わかるよ。俺とおっさん以外には明らかに接待プレイしてたもん。そうだ、不正だ。これにはどう考えても不正がある。イカサマだ。勝負事への冒涜だ。そして犯人は――


「犯人は、ミスト、お前だッ!」

「は? 何を言っている?」

「だってお前、俺とおっさん以外にはわざと負けに行ってたもん! ぜんぶ1枚差で決着とかどういう神業!? 俺とおっさんに対しては盤面真っ黒に染め上げたくせに! ぜぇーったいズルい! なんかズルした! おかしい! ありえん! 俺はこんな結果は認めない!!」

「あのなあ、初めての者にはまず楽しさを伝えなければならんだろう。それに対し、熟練者に対しての手加減は失礼だ。全力で相手をするべきだろうが」

「むきぃー! 正論パンチー! 言い返せないー! メェぇぇー! でもでもー、ハーピーたちが7人で1チームってのはどうなんすかね!? 卑怯! 卑怯としか言いようがない! 1対1なら絶対俺が勝ってたもんね!」

「し、死ぬほどめんどくさいな……」

「あー、あーしとサシでやりたいってんなら付き合うけど……」

「やるぅー! フルボッコにするぅー!」

「お、おう。がんばってくれな」


 フルボッコにされた。

 俺は心の瞳から涙を流した。


「ヒツジ先生、元気だしてねー」

「……リバーシで、人間の価値が、決まるわけじゃない」


 幼女連からなぐさめられた。

 俺は心で号泣した。


「吾輩は、決めた」


 俺がヒツジさんボディをじたばたさせていると、黒竜のおっさんがゆらりと立ち上がった。

 その表情は真剣で、途方もない迫力がその身からにじみ出している。

 部屋の気温がすっと下がり、空気が重くなったような錯覚に陥る。


 濃密な空気を引き裂きながら、黒竜公はゆっくりとミストの前まで歩く。

 そして、口を開いた。


「吾輩の師になって欲しいのである!」

「え……?」

「吾輩のリバーシの道を、導いてほしいのである!」


 片膝をつき、手を差し伸べる様子はまるでプロポーズのようであった……。


 * * *


 3日ほど、吹雪が続いている。

 ハーピーたちではとても飛べそうにない天候のため、俺たちは黒竜公邸に足止めを食らっていた。


 ミストはおっさんにつきっきりでリバーシを教えている。

 ハーピーたちもリバーシがすっかり気に入ったようで、一緒に教わっているようだ。

 つか、ミストは王都の大会で優勝した経験があるほどの腕前だったらしい。なんだよそれ、プロが素人の大会を荒らすとか、許されないんじゃないですかね!


 俺、メリスちゃん、シロちゃんの「チーム:落ち着きがない」も最初は聞いていたのだが、飽きたので黒竜公邸内の探検ツアーに出かけている。

 探検つっても、シロちゃんは隈なく知ってるので案内されているだけなのだが。


「……ここ、温室。暖かくて、好き」

「すごーい! お野菜や果物がいっぱい!」

「昔よりもずっと広くなってんなあ」


 いま訪れているのは、あのカレーにも使われていた野菜を作っている温室である。

 全面ガラス張りで向こうが見えないほど広く、区画ごとに温度管理がされているそうだ。


 熱源は風呂にも使っていた温泉。

 捨てる湯を地中の配管に通すなどして、一定の温度を保っている。

 どんだけこだわってんだよ……あのおっさん。


「……こっち、果物。食べれる」

「わぁ! 見たことないのばっかり!」

「……これ、おすすめ。皮剥いて、食べる」


 シロちゃんが差し出した黄色くて細長い果実を、メリスちゃんがおいしそうに食べている。よかったねえ、おやつもらっちゃったねえ。


「それにしても、下から上に向かって伸びるなんて面白い果物だな。俺も見たことないけど、なんて名前なの?」

「……バナナ。昔は、王国のもっとずっと南に、生えてた、って」

「へえ、降魔災害以前の植物ってことか」


 降魔災害をなんとか生き残った王国だが、かつてに比べるとはるかに狭い国土になってしまったらしい。

 胡散臭い話だが、もともとは1億人以上が住んでいて、世界全体では60億だか70億だかの人間がこの星で暮らしていたそうだ。そんなにうじゃうじゃいたら、歩く隙間もなくなっちまいそうだけど。


「そんなもん、よく手に入ったな。どっかのダンジョンか遺跡から出てきたの?」

「……魔女、くれた、って」

「あー、師匠かあ」


 たしかに、あの師匠なら何を持っていても不思議じゃない。

 師匠と黒竜のおっさんは何百年も前から交流があるらしい。弟子にされてちょっとの時期に、いきなりバカでかいドラゴンを客として紹介されたときは心臓が止まるかと思ったことをおぼえている。


「……こっちも、魔女、くれた」

「なにこれー! すごーい!」

「……危ない、ドア開けちゃ、ダメ」


 シロちゃんが指差す隣の温室には、粘液にまみれた無数の触手をよじらせながら、異形の口でお互いを貪りあう植物型モンスターの群れが見えた。

 すごいね、大自然のスペクタクルがここに再現されてるね。でも、メリスちゃんの教育に悪いから、あんまりじろじろ見ないようにしないとね。ずっと見てると、徐々に人間性が失われそうな冒涜的な光景だからね。

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