第19話 大賢者、空に舞う
「すごーい! 高ーい! 見てみて、あっちに王都が見えるよ!」
「すごいねえ、王城がおもちゃのおうちみたいだねえ」
ハーピーの群れに吊り下げられて空を飛ぶ俺たちの眼下には、広大な景色が広がっている。
はじめての飛行体験に、メリスちゃんも大はしゃぎだ。
広い草原を貫く、細く頼りない街道の先には王都が見えた。
古代遺跡を流用して作られたと言われる王都は細長く切り出した石材をそのまま縦に並べたような姿で、こうして上空から眺めるとなんとも頼りないものに感じる。
「ふむ、これがハーピーの固有魔法か。風を操ると言われていたが、それだけではないな。重力に干渉している? じつに興味深い」
メリスが地上に興味津々な一方で、ミストは間近に見るハーピーに興味があるようだ。
金属製の四角い箱に、レンズをはめ込んだ道具をハーピーに向けている。
「なあなあ、その道具なに?」
「ん? ああ、百年前にはなかったな。これは映魔機という魔道具で、動く景色をそのまま記録できる優れものだ」
「景色を記録?」
「見せた方が早いな。ちょっと、いつものうっとうしい踊りをやってみろ」
ミストが映魔機なる道具のレンズを俺に向けてきた。
なんだかよくわからんが、俺はどんぐりタップダンスを決めた。
ふふ、きっと俺は、空でタップを刻んだ世界で最初のヒツジさんだぜ!
「そもそもわたぐるみなんぞに憑依した人類はお前が初めてだ。何をやっても世界初になるから安心しろ。ほら、撮れたぞ。見てみろ」
映魔機の裏には鏡のようなものが付いていた。
そこに愛くるしくもキレのよい動きでタップを踏むヒツジさんの姿があった。
「へえ、すげえな。こんな面白いものができたのか」
「そのままではないが、発掘品を再現したものだ。まったく、古代文明とはどれほどのものだったのか……いまの我々は、どれだけ研究を重ねても降魔災害以前の文明にまるで追いつけていない」
「降魔の前は魔法がなかったんだろ? いまの方が勝ってることもあるんじゃないかと俺は思うけどなあ」
「さて、どうだかな」
「ゴーマサイガイってなあに?」
俺とミストが映魔機をいじりながら話していたら、メリスちゃんが右手を挙げて質問してきた。
手を挙げるのは学院の授業の時に習ったのかな? えらいねえ。
「降魔災害というのはな、数百年から千数百年前――ずうっと大昔に起きた大災害のことだ。新たな月とともに《神》や《悪魔》と呼ばれる存在が何柱も顕現し――いや、難しい言い回しだったな。すごく強い魔物がたくさん現れて、世界がめちゃくちゃになってしまったんだ」
「新しいお月様?」
「そうだ。大昔はお月様は小さい方しかなかったんだよ」
「へえー。じゃあ、大きなお月様はどこからきたの?」
「それはまだわかってないんだ。いま、大勢の学者さんが調べているところだね」
「そうなんだー」
薄く夕暮れがかった西日の逆、東の空には親子月が浮かんでいる。
小さい方が親で、何倍も大きい方が子どもである。俺も小さいころは逆だと思い込んでいたが、出来た順番で決まった名前らしい。
《
神々によって引き裂かれ、荒廃した大地で生き残るためには必須の力だった。人類を滅亡寸前まで追い込んだ元凶が、人間が生きるための力になったのはなんとも皮肉な話だ。
「おい、そろそろ白骨の森の手前だ。日も暮れてくるし、このへんで一旦降りるぞ!」
「うむ、今日も一日ごくろうであった」
「なんでヒツジ野郎が偉そうなんだよ……」
ピュイがため息をつき、俺たちの乗るカゴが徐々に高度を落としていく。
ハーピーは夜目がきかないし、白骨の森を越えるには丸一日飛び続ける必要がある。
今夜は野営をして英気を養い、明日、一気に黒竜山脈へ至る予定だ。
俺たちは焚き火を囲み、保存食を茹で戻したスープに舌鼓を打った。
俺は食事ができない身体なので、食事中の余興としてタップダンスを舞い続けた。
揺らめく炎に照らされ、軽快に踊るヒツジさんボディ。
へいっ! 今夜はパーリィナイトだっ! お前らも踊ろうぜッ!!
「やかましい」
「うぜー」
「すやすや」
概ね不評だった。なぜだ。
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