第15話 大賢者、干される
すべてを吐かされた。
トップシークレットである「美少女になりたい」って願いについても漏れなくバレた。
死にたい。消えたい。夜空から女の子たちがわちゃわちゃしているのを心静かに見守っている、そんな星座に生まれ変わりたい、と俺は虚ろな心でかろうじて考えていた。
「お前というやつは……呆れるほどにどうしようもないな……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……生まれてきてごめんなさい……」
俺は、存在しない涙腺から涙を流しながら土下座していた。
「だって刑事さん、俺はねえ、俺は……美少女になりたかっただけなんだよ……あとカツ丼ください……」
「誰が刑事か! カツ丼なんてあるかっ! あってもお前は食べられないだろ!」
たしかに食えない。このヒツジさんボディはわたぐるみなのだ。食事ができる構造になっていない。
「刑事さん、刑事さん、俺が悪かったよう……。田舎のおふくろにだけは、黙っててくれないか?」
「おい、この茶番はいつまで続けるつもりなんだ?」
「申し訳ございませんでした」
俺はしゅびっと背筋を伸ばした。正座で。
「問題を整理するぞ。まずひとつ目。魔力を生成する血肉がないこと」
「代わりにもふもふボディを手に入れたぞ」
「ふざけてると焼くぞ。次に、血肉に付随する経絡がないこと。というか、そもそもお前、どうやってその体を動かしているんだ?」
「うーん、こう魂から魔力の線をこうにゅるにゅるっと伸ばしてね、綿をこう、ギュッと締めたり伸ばしたりするかんじ?」
「経絡を魔力操作だけで再現してるのか……相変わらずわけのわからないことをするな」
「俺からするとできない方がわからん」
「黙れ、反則ヤロー。みっつ目、お前の体は常に魔力を消費しながら動いている。魔力が回復できない状況でそれだから、そのうち魔力切れになって死ぬ。これで合ってるか?」
「合ってるよ。なるべく漏れないように気をつけてはいるが、じっとしてても徐々に垂れ流されていくしな」
ミストは顎をさすって何事か考える仕草をした。
「なあ、お前、あのメリスって子に魔力を流し込んでるだろ? その逆はできないのか?」
「魔力を吸う? うーん、
「その『
「できないかって聞かれてもなあ。魔力の直接操作なんかできないって言ったのはミストの方じゃん」
「私だって修練は積んでいる」
「できるようになったの?」
「できたことはない……が、今日成功するかもしれない。いや、成功する。そんな予感がする」
「えっ、あっ、ちょっ、乱暴はやめてっ」
俺はテーブルの上にころんと仰向けにされ、腹にミストの両手が重ねられる。
「こら、暴れるな、大人しくしていればすぐに済む」
「や、優しくしてね。はじめてだから……」
「私もはじめてだから安心しろ」
「安心できる要素がねぇっ!?」
「さあ、入れるぞ。ふぅんっ、ぁっ、んんっ」
「ら、らめぇ! なんか入ってくるのぉぉぉおおお」
「んんっ、あンっ、んんん!」
「らめぇぇええ! んあぁぁぁあああ!!」
ミストの手から放たれた大量の水によって、俺の身体は芯からずぶ濡れになった。
頬を紅潮させたミストが、荒い息をついている。
「はぁ、はぁ。どうだった? 少しはよかったか?」
「……いや、ダメみたいだ。魔力は回復してない」
「水の流れをイメージしてみたのだがな……やはり魔力をそのまま体外に出すのは困難だ。意図して行うと、どうしても何らかの現象として表出してしまう」
「そういうもんかあ」
「普通はそうなんだ! しかし、魔力を外部から直接補給するのがむずかしいという事実を確認できたな。上手くいかない方法をひとつ発見した、という意味では成功だ」
「ミストって意外に前向きだよなあ」
「他人事のように……誰のためにやってると思ってるんだ」
「ひっ、す、すみません。やめてっ、雑巾絞りしないでっ」
俺はミストにぎゅーっと水分を絞り出され、窓際に干された。
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