第14話 大賢者、ガン泣きされる
「戻ったぞ。担当教諭には話はつけておいたから、心配しなくていい」
「メェぇぇー」
「だからそれやめろ」
ミストにごつんと頭を殴られ、俺は人間性を取り戻した。
ミストは真剣な目で俺を見つめて、口を開いた。
「あと、どれくらいもつんだ?」
「な、何の話かな?」
「とぼけるな、その体じゃ魔力が生成できないだろ」
「うっ」
なんとかごまかせないかと思っていたが……ミスト相手には無理だな。
仕方がない、メリスのことも頼まなきゃならんし、正直に話そう。
「まあ、派手に魔法を使わなければざっくり1年ってとこかな。体感だけど」
「その状態で1年もつのか……相変わらず反則だな」
「へへっ、《大賢者》様の名は伊達じゃないぜ」
「あと1年で死ぬっていうのに、どうしてお前はそんなに冷静でいられる……」
「うーん? まあ、人間死ぬときゃ死ぬからなあ。せっかく転生したのにもったいないなあとは思うけど、一度死んだし、おまけみたいなもんだからな。メリスみたいないい子を助けられたんだから、差し引きで考えれば大黒字って――」
「なんでお前はっ! いっつもそうなんだ!!」
「ひっ、す、すみません」
俺がべらべらとしゃべっていたら遮られて胸ぐらを掴まれた。
胸ぐらっていうか、もう首を絞められてる。ぐえー。首絞めたまま前後に揺さぶらないでくださいぐえー。
「自分を金か道具みたいに扱って! 天才だとか大賢者とか自慢するくせに実のところ自己評価が最低だ! 何が差し引きで考えたら黒字だ! あの旅で……お前は何度命を捨てようとした! 答えろ!」
「い、命を捨てようとしたことなんて一回もないですよ。こう、命って大切じゃないですか。だからですね、有効活用をしなければならないわけです。俺ひとりの命でですね、大勢が助かれば、全体的にはプラスだよねえっていうか――」
「だから! そういう考え方をやめろって言ってるんだ!」
俺はバシーンとテーブルに叩きつけられた。
その俺の腹に、ミストが顔を突っ込んでえぐえぐと泣きはじめる。
えっ、ナニコレ? 俺、何か地雷踏んじゃいましたか!?
「お前が邪神との戦いで死んで、私が……私たちが、どれだけ悲しんだと思ってるんだ?」
えっ、えっ。
「ヒロトが、1週間も何も話さずに壁を見つめていたぞ」
あの熱血バカが?
「イエローは、何日も食事を受けつけなかった。カレーもだ」
あのイエローが、カレーも!?
「そして私は……私は……いや、なんでもない」
「えっ、そこでやめるの? 超気になるんだけど。ミストはどうなっちゃったの?」
「……うっざ! 死ね! バカ! そんなに死にたいなら、いますぐ焼却してやろうか!」
「ひっ、す、すみません! 勘弁してください!」
俺はとっさに謝った。
なんでさっきまで「命を大切にしろ!」みたいな話だったのに、急にブチ切れて殺しに来るんだよう……わけがわかんないよう……怖いよう……。
「とにかくだ、お前は、お前の算盤の中で自分を軽く扱うのをやめろ。約束しろ」
「は、はいっ」
「それからだ、お前の延命の方法を考えるから、お前の状況を、包み隠さず話せ。ごまかしたり嘘をついたら焼く」
「は、はいっ」
「本当だな?」
「も、もちろんっ」
「必要な情報をあえて話さない、っていうのも嘘に含めるからな?」
「しょ、承知しましたっ」
「ふん、それなら許してやる」
「ありがたき幸せっ!」
ミストは俺のお腹から顔をあげると、さっと後ろを振り向いた。
ハンカチで顔を拭っているらしいが……あっ、洗面所に行った。
あっ、戻ってきた。早い。化粧直しとかいらないのか?
すっぴん美人ってやつか。強いな。
「よし、改めてお前がその身体になった経緯を詳しく話せ。繰り返すが、嘘やごまかしがあったら焼くからな?」
「もちろんでありますっ!」
ミストはソファに座って、さっきまで取り乱していたことなんてなかったかのように、こちらにキリッとまなざしを向けてくる。
俺は短い足を無理やり折りたたんで正座をし、転生に至る経緯を正直に話した。
お腹が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだから、とりあえず洗濯してほしいなんていえる雰囲気ではなかった。
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