第9話 大賢者、学院に侵入する
7日間の旅を終えて、王都の大学院とやらについた。
立派な校門には全身を金属鎧で包んだ2人の衛兵が立っているが――こりゃゴーレムだな。錬金術によって創られる魔法仕掛けの人形だ。
校門を通り抜けようとすると、衛兵ゴーレムが
ふむ、なるほど、無許可での通行は禁止ってわけかい?
面倒くせえなあ……と思いながら、俺は魔力の触手を伸ばし、ゴーレムの術式ににゅるっと介入する。
なんとなく見覚えのある術式だな。これならどうとでもなるだろう。
俺はゴーレムの頭に侵入させた魔力の触手をにゅるにゅると動かして術式を改竄した。
ゴーレムがハルバードを引き、元の直立不動の姿勢に戻る。
「ヒツジ先生ー、いまなにしたの?」
「うーんとね、ゴーレムさんにね、私たちは友だちだよって挨拶したんだ」
「そうなんだあ。じゃあ、あたしも挨拶するね!」
メリスちゃんがそれぞれのゴーレムにぺこりとお辞儀をして自己紹介をしている。かわいい。
危ないと思われるかもしれないが、俺とメリスは「オトモダチ」だと刷り込んであるので、危険なことは何もないのだ。
「部外者か? 無許可での立ち入りは禁止されているぞ」
メリスちゃんに肩車されながら校庭を進んでいると、見知らぬ人に呼び止められた。
浅黒い肌に尖った耳、細身だが出ているところは出ているメリハリの効いたバディ。鼻の頭に小さな眼鏡を載せた、ダークエルフのお姉さんだった。
「おお、それは失礼しました。何しろひさしぶりに来たもので最近の流儀を知らず」
俺はメリスちゃんからぴょこたんと飛び降りると、丁寧にお辞儀をした。
この身体だと視線が低いから、自然にお姉さんのスカートの中が見れそうだなとか思って降りたわけではない。そう、狙ったわけでない。これは事故だ。故意ではない。なるほど、白ですか。ありがとうございます。
「小型のゴーレム? 可動機構があるようには見えないが……いや、ひとまずそれはいい。どうやって衛兵ゴーレムをごまかした? 入ってくるところを見ていたぞ」
「ゴーレムさんとね、お友だちになったからだよっ」
「お友だちに? どういうことだ?」
メリスの無邪気な返事に、ダークエルフお姉さんが小首をかしげる。黒い前髪がはらりと揺れた。
「ヒツジ先生はね、大賢者だからなんでもできるんだよっ」
「大賢者だと?」
「ああ、申し遅れました。事情があってこのような姿をしておりますが、私はセージと申す者。僭越ながら《大賢者》の二つ名で通っております」
「あたしはメリスだよっ」
うんうん、メリスちゃんもきちんとご挨拶できてえらいね。あとでしっかり褒めてあげなければ。
これならお姉さんの心証も花マル急上昇だろうと様子を見ると、一瞬訝しげな表情を浮かべた後に、すぐに眉間にシワを寄せた。
「大賢者セージ……。よりによって、この私の前でその名を騙るとはな。ふふっ、いい度胸だ」
あれ、なんか怒ってらっしゃる? 俺って何か評判悪いの? いや、百年前だもんな。俺は長命種じゃないし、おまけにいまはヒツジさんボディだ。信じられなくて当然か。
とりあえず学院に入って知り合いがいないか探してみるつもりだったが……まずいな、このままだとつまみ出されかねん。
「まあ、いい。それなりの覚悟と事情があるんだろう。話を聞いてやるからついてこい」
なんだかよくわからないが、ちゃんと話せば誤解も解けるだろう。
俺はメリスちゃんにぶんぶんされながらお姉さんのあとをついていった。
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