第2話 1-2.職員会議での出来事
午前中の更衣はどうにか終えることができた。
これで一日の仕事の半分が終わる。少しほっとする。
午後から職員会議があり、昼食後入所者が部屋のベッドで臥床してがらんとなったホールへ今日出勤している職員が集まったが、そこへ大山さんが歩み寄り、今寝かせた人が失禁してたんで更衣を手伝ってほしいんですが、と誰へともなく呼び掛ける。
女性職員達の表情は固まっていて、誰も返事をせず、動こうとしない。
やがて一人が、会議やんか、と言う。
そうや、と何人かが同調する。
誰も行かないので、仕方なく僕が立ち上がると、ベテラン職員が、ちょっと見て来て。今会議やって言うて来て、と僕に命じる。
もちろん僕が立ち上がったのは誰も行かないから自分が手伝おうと思ったまでで、若いとは言え先輩の大山さんに注意したり指図しようとは思わないが、女性職員達も自分達から直接は言いにくいのか、それを新人職員の僕に託そうとする。
大山さんの居る部屋へ入って行くと、大山さんが開口一番、僕に、あんな職員にはならんといて下さい、と言う。
大山さんと他の多くの職員達とでは仕事の進め方が大きく違っているが、もっと根底にあるような気がするのは、この仕事に関しては、仕事の進め方が違うということは人間に対する見方が違っているのではないか、ということで、入所老人達の人間性を軽視し日々のスケジュールに押し込めて行けば仕事はスムーズに進むかも知れないが、老人達の声にならない不満感情はつのっていくだろう。
老人達の声にならない声に耳を傾け応えていると、仕事がなかなか前に進まない。
普段の仕事の進め方、段取り的なものに、人間観が出てしまう。
人間観が違うと、当然対立し、仕事で、と言うより、人間的な敵対関係になってしまう。
ある意味怖い仕事だが、全く同じ考えの人達が働いている中に新人の僕が居るよりも、考え方の違う者同士がぶつかり合う渦中に居た方が面白い、と思えてきた。
それからの日々は、仕事を覚えることに加えて、いや、仕事の段取りを覚えることはほどほどにして、珍妙そのものである入所老人達の行動形態や、職場の人間関係の観察に意識を傾けた。
今日はどんなことが起こるだろうと、だんだんと仕事へ行くことが楽しみになってきた。
苦痛もあるが、楽しみが勝っている。
自分が失敗しないよう怒られないようこせこせするのは苦しいが、自分を観察者にして回りをよく見ていると意識が変わり、気持ちに少し余裕が出てきて回りの物事も好転していくことは、今までの人生でもあったように思う。
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