第5話 少女視点(パン一切れの値段)
直ぐに周りがスベスベの壁に変わった。人工の物だ。
なにこれ。
穴の突き当りには、スベスベの壁があった。
触っても、見た感じと一緒でスベスベだ。
明らかに、人の作った物だわ。
なにこれ。
塔の外側なのかしら。
不思議な壁を触っていると、奴隷の悪魔が指示をしてくる。
「このガラスみたいな所を触ってくれ。触り続けておいてくれよ」
私が指示どおり触ると、壁に穴が開いた。
私は驚いて、思わず「エッ」って声を出した。
「吃驚しただろう」
奴隷の悪魔の言うとおり、とても驚いた。
吃驚し過ぎていて、自然とうなずいてしまった。
これは仕方が無いと思う。
まさか、触っただけで、ツルツルの壁に穴が開くとは思わない。
奴隷の悪魔は、壁の中へ入ろうとしている。
私は、「アッ」って声を漏らした。
だって、ここに1人で残されるのは嫌だ。
こんなところで、一人ボッチで死ぬのは嫌だ。
絶対に気が狂ってしまう。
たとえ、奴隷の悪魔でもいる方がましだ。
「心配するなよ。君を置いてきぼりにはしないよ」
本当かな。
頼みますよ、悪魔さん。
私は、うなづくことしか出来ない。
ここにいても、どうしょうも無い。
先に進むしか無いのは、私にも分かる。
長いこと、悪魔さんは中を調べていた。
悪魔さんは、壁の穴の下に何か丸い物を置いた。
「ガラスみたいな所から手を離してくれ」
私は、恐る恐る手を離した。
壁の穴は、丸い物の分だけ閉まらなかった。
悪魔さんが、私を手招くので、隙間を這って、壁の向こうへ入った。
ここにいても、しょうがないし、向こう側に興味もある。
隙間は割と大きかったので、簡単に行けた。
壁の向こう側は、大きめの部屋だった。
小さな家くらいの大きさがある。
壁も床も天井も白くて、不思議なことに明るい。
眩(まぶし)いくらいに明るい。
部屋の中は、ガランとしていて、何も無い。
空っぽだ。
部屋の中には、丸い物の他は、長細い物があるだけだ。
何かは分からない。
見たことが無い物だ。
材質は、鉄でも陶器でも無いみたい。
肥溜めが、不思議な部屋に続いていた。
何か夢を見ているみたいで、現実感がないな。
それにしても、この不思議な部屋は何なんだろう。
ここで、行き止まり何だろうか。
悪魔さんは、どうやって、この部屋を見つけたのだろう。
悪魔さんが、パンを一切れと、お肉を千切ってくれた。
お肉を食べるのは、何日ぶりだろう。
良く噛まないと、胃が受けつけなくて、戻してしまう。
それでは、あまりにもったいない。
お肉を噛むと、お肉の味が口一杯に広がる。
思わず、顔がにやけてしまった。
だって、お肉はやっぱり美味しい。
私は「ごちそうさま」と礼を言った。
見習い巫女としての礼儀は教わっている。
病気になっていても、言う必要がある。
人としての常識だ。
「どういたしまして、働いてくれたからね。それより疲れたよ。今日はもう寝よう」
いよいよか。
私は緊張して、心臓がバクバクと鳴っている。
若い男と二人切りで、いるんだ。
本当に怖い。
誰かに助けて欲しい。
そんな人は、どこにもいないけど。
私は、パン一切れの値段から、千切った肉も上乗せされたけど、そんな安い女じゃ無い。
パンとお肉を食べて、少しだけましになった体力が、続く限り抵抗してやるぞ。
体力がつきても、思い切り見下げた目をしてやるんだ。
みてなさいよ。
私は、警戒しつつ、悪魔さんから、離れた場所で横になった。
しばらくすると、悪魔さんが寝息を立て始めた。
あれ、寝たの。意外だ。
もしかして、悪魔さんが、私をさらったのは、この部屋に入るためだけだったの。
二人いないと、入れないから。
良く考えたら、最初から、私を襲うつもりは無いのかも知れない。
病気がうつる可能性が高いから、そう考えても何も不思議は無い。
普通の人は、皆、そうだ。
私に近づきもしない。
こんな病気持ちの女を抱いて、病気になったら割に合わないか。
食べ物もくれたし、悪魔さんから奴隷さんに、変えてあげなくちゃいけないかな。
どっちも、嫌と言いそうだけど。
病気は、今も私を蝕むしばんでいる。
身体が酷くだるくて、関節も筋肉も痛い。
咳も止まららない。
でも、私は、少しだけ楽しくなって、久しぶりに安らかに眠れたように思う。
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