15 国を出る

馬車の旅もそろそろ終わりに近づいた。リルはダンジョンの町で懲りたので一目散に国境を越えることにして、馬車を乗り継いで行った。想定外は馬車の振動だった。尻を直撃してきたのだ。回復魔法を使えることに感謝、感謝だった。


問題はそれ以外にもあった。国境を越えるにあたって気がかりなうわさを聞いたのだ。どう対策すればいいか、この二三日ずっと考えている。


うわさと言うのは食料を買い込んでいた市場で聞き込んだものだ。


なんでもおえらい貴族様が国境の町に居座って冒険者の顔を確認しているというのだ。

顔をじっくり見るだけでなにもしないのだが、なんともいどこちの悪い気色悪いことだというのだ。


これって、もしかしてるかもと思い当たったリルは悩んでいるのだ。


馬車が休憩だと止まった。腰をさすりながら馬車を降りたリルは体をほぐす為に軽く歩き回っていたが


「そいつを捕まえてくれ」と大声を聞いた。なぜかその声に従い足を突き出した。


男は破れた服を着て、裸足だった。



男はもんどりうって転んだ。


リルは男に近づくと手を後ろでひねりあげて拘束した。


「兄さんありがとよ。こいつ逃げ出しやがって」


「たいしたことじゃないが、こいつはその?どうして?」


「知らないのか。奴隷だ」


「まだ奴隷はたくさんいるのか?」


「まぁな、相棒が怪我しちまって手が足りないくてな」


「そうか、金が欲しいんだ。雇ってくれ」


「そんなに出せないぜ」


「贅沢は言わない」


「国境を越えたら迎えがいるから、そこまでいいか?」


「助かる。そいじゃ馬車を断ってくる」



小さな出入り口のついた箱のような馬車の中に奴隷が十人、乗っていた。手と足に枷を付けられて下を向いて座っている。


先ほどの男を放り込むために戸が開けられても誰も反応しなかった。


男を放り込むと戸を閉めて鍵が掛けられた。


リルと男は御者席に並んで座った。


「俺はフールだ」とリルは名乗った。


「俺はライヤ。よろしくな」





道中、リルはライヤに奴隷商売について教わった。


最近、この国の田舎は土地が荒れてきて、税金を払う為に身売りする者が増えてきて奴隷商人のいい稼ぎ場所になってきたということで、ライヤもこの機会に奴隷商人を始めたらしい。


奴隷契約の方法、闇で儲ける方法、なぜかぺらぺら教えてくれる。


リルは話を聞きながら、計画を練って行った。


その日の野営地は街道の脇の広場で先客が二組いた。


ライヤは如才なく挨拶をすると焚き火を始めた。大鍋に湯を沸かすと干し肉と野菜を煮てスープを作った。


馬車の裏手に奴隷を並べると、リルに命じてスープを配らせた。カビのはえたパンを出すとそれも配らせた。


奴隷たちは臭っていた。リルが顔をしかめているのを見てライヤは笑っていた。


「御貴族様に奴隷の世話は大変ですね」と言うので


「僕が貴族と思う?」


「誰が見ても貴族だろ。結婚がいやで逃げ出したってところだな」


「確かに逃げ出したが・・・・」


「まぁ俺らも飯食おうか」とスープに干し肉と野菜を足した。


「奴隷と同じ飯だが・・・・ちょっと待ってろ、肉がやわくなる」

スープと一緒に渡されたパンにカビは、生えていなかった。


「奴隷はどこに売るのだ?」


「国をでたら元締めがいて、めぼしい者を引き取ってくれる。残った者は・・・そうだな・・・ダチがやっている娼館に引き取ってもらうんだ。世の中にはとんでもない趣味の人間がいるからな・・・・なんというか・・・・俺も一発当てて伸し上がりたいよ」


「国はどうやってでるんだ?」


「そこはそれ・・・どこでも悪い奴はいるし・・・奴隷の乗った馬車を検査するやつもいないさ・・・臭いしよ」


「なるほど・・・・」


夜の見張りは大部分リルがやった。そうした野営を重ねて明日は国境を越えるという最後の野営をしているときの事だ。


「おらぁ、フールを仲間にしてよかった」そういいながら抱きついてきたライヤに腕輪を付けられてしまった。


「これは・・・」


「すまんな、仲間にするには上玉すぎてな・・・途中であんたを見た元締めの命令なんだよ・・・・」


「・・・・・」


「俺があんたの主人だ・・・・」と言いながら腕輪に手を重ね呪文を口にしようとしたライヤの腕と自分の腕をリルは切り飛ばした。


「うわーーーー」とのたうち、焚き火に転がり込みまた転がるライヤ。


「・・・・・」声をおさえてリルは痛みに耐えた。




馬車の中では奴隷たちが物音を聞いて、恐怖に震えていた。




やがて馬車のドアが開くとフールが立っていた。


「みな、助ける。逃がす・・・・・すまないが見張りを頼む・・・」というとフールは倒れた。


顔をみあわせていた奴隷達だが、一人が恐る恐る外にでた。


焚き火のそばに奴隷商人が転がっていた。片手は肘から先がもう片方は手首がなくなっていた。

不思議と出血は止まっていた。奴隷の男があたりを見回して悲鳴をあげた。


手がそこここに落ちていたのだ。数えると三本あった。


消えかかった焚き火にそばの小枝を足し、足かせを忘れて走ろうとして転んだ男は、這うようにして馬車のところに戻った。男はまわらぬ口で見たことを話した。





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