わんでい
あの女をどうこうしたって意味がない。
でも、どうしても恨みつらみは重なります。わたしからすれば、五条ソラは、お姉さまを横からかっさらっていった泥棒猫には違いないのですから。わたしたちの悲願達成の最大の壁でもありますし、それに何より、理性と恋心の間で板挟みになっているお姉さまを救うためでもあります。
そんなこんなでわたし、人間世界へとやってきました。
もちろん、にっくき五条ソラの息の根を今度こそ止めるため。――だったのですけど。
「こんなに強くなかったのに……!」
わたしの方がコテンパンにされてしまいました。痛い。ぼこぼこにされた体が重い。指一本も動かせません。
足音が近づいてきます。誰かなんて考えるまでもないでしょう。手が伸びてきて、わたしの体を持ち上げます。そして、五条ソラと目が合います。
「殺すならさっさと――」
「殺さないよ」
「どうして。今まではずっと殺してきたじゃない。わたしたちの同胞を!」
「それは悪いことをしたから」
「わたしだって、悪いことを」
「したけれど、あんたのことが好きになった」
「何を言っているの」
頬に鋭い痛みが走る。あまりに速くて、五条ソラにぶたれたと気づいたのは、少し後のこと。わたしは頬を押さえて、魔法少女を見ます。
その目には、愛がありました。
わたしを押しつぶしてしまいそうなほどに大きな愛。
それがただ一人、わたし一人へと注がれている。
「アンタみたいな強いやつには、はじめて出会った。アンタなら、わたしのことをもっと強くできるはず。わたしのことをもっと傷つけて痛めつけてくれるよね?」
――そうすれば、みんなを守れるほど強くなれるからさ。
アイが瞳の奥でぐるぐると回っています。それは、お姉さまが五条ソラへと指向しているものとはタイプが違います。どちらかといえば、わたしのものに似ていて、でも、わたしのピンク色のものなんかよりもずっと煮詰まっています。まるでブラックホールのよう。
まさか、魔法少女がこんな性格だったなんて。これじゃあ、わたしたちの仲間みたいなものじゃない。
「違うよ」
わたしをひょいと抱きかかえた五条ソラが、言いました。
「わたしをこうしたのは、あなただよ。魔法のムチでなんどもなんどもぶったでしょ。あれで、痛みが気持ちよくなっちゃった。もしかしたら、魔力の相性がいいのかもね」
「…………」
「黙っちゃってかわいいんだから」
「……どこへ連れていくつもりなの」
「どこってあたしの家。安心してあたし、高校生になってから一人暮らしなの。地球を脅かす存在の一人くらいならかくまえるからさ」
なにも安心できないじゃない。
言おうとしたが、体はすっかり疲れ切っていて、言葉になりません。返事をしないわたしを見て、相手がどのように思ったかはわかりません。 笑い声が、風に乗って聞こえてきました。
――大好き。
わたしへと向けられるべきではない言葉が、色々な意味で、わたしを震え上がらせるのでした。
るっくあっとみい! 藤原くう @erevestakiba
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