第18話 ウエイトレス女子大生からの提案
彼女はさらに自分の家族を引合いに出し、いささか若い勤労少女に向かって思うところを述べていく。
4歳上の兄も私も、両親からしっかり勉強するよう言われてきた。
おかげで兄は今、京都大学の大学院に通っている。司法試験にも合格したけど、学者になって欲しいと言われて、今民法の**先生のところで必死で勉強している。
別にこの店など継ぐ必要はないというより、そんなものを継ごうなどとするなとさえ、兄は言われていたわね。私も、そう。
だから、私は中学校の教師になるために、教育学部に進んで勉強しているの。
この店や地域だけでなく、どこに行っても通用する人間になれ、そのためには、勉強したことをきちんと証明できるようにしろと、ずっと、言われてきたから。
清美さんがもし、この店に勤めてウエイトレス姿で働くこと自体にあこがれているだけなら、悪いことは言わないからやめた方がいいわね。
そんなことなら、お金をためてもっとかわいらしい服でも買って街に出たほうが、はるかに楽しいわよ。もっとも、そんなゆとりもこれまでなくて、そんな気持ちにもまだなれないのでしょうけど。
先程両親と下川さんご夫婦と私で、あなたに対してできることというよりむしろ、あなたにぜひお願いできることはないかって、考えてみた。
あなたは今定時制の商業高校に行っていて、商業絡みの教科・科目を学んでいるわね。それを活かすのもそうだけど、将来的にあなたにとって必要な技能は何かということになって、それは、接客と経理の仕事ではないかと、そんな結論になった。
もちろん、毎日朝からずっと来ていただくことは不可能だし、今いる本屋さんのお仕事も、ぜひ続けてもらいたい。
聞けばすでに、下川書房さんの経理もほぼ全面的に任されていると言われているわね。どうせなら、当店の経理もお手伝いいただければと、そんなお話になったの。
御存知だと思うけど、そろそろ確定申告もあるし。
もちろん、忙しい時、例えば学校が休みのときとか、そういうときには、下川書房さんの業務に差し障りない範囲で、って条件が入るかもしれないけど、接客やレジの仕事も、やってもらえればありがたいなと、思っています。
どうかしら?
教育学部の同期生の話を、法学部にいる男子学生が継いだ。
ぼくも、今本田さんが言ったような方針でやってみたらいいと思う。
清美が将来、喫茶店を自分でやることになったとしよう。そのとき、今下川書房さんで学んでいることも、この店で学んだこと以上に役立つことが出てくる。
さっき本田さんが、喫茶店は、珈琲などの飲食物を通して文化を提供するところだと言った。ぼくもそれには同意だ。
さて、今まで本屋さんに勤めて扱ってきた本に、清美はどれほどの興味をもって接していたか?
そうでなかったとしたら、随分、勿体ないことをしてきたと思うけどなぁ・・・。
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