本編
第1話 容姿端麗より、気立ての良さを望む。
ジリリリリン
岡山市内にある大宮病院の黒電話が、人を呼び始めた。この日は日曜日。通常の診察はないし、救急病院でもないので、業務に関わる電話はまず鳴らない。
その電話に、院長が自ら出た。この電話は、自宅の電話もかねてのものである。
「はい、大宮でございます」
架電の主は、院長がかねて懇意にしている老紳士。養護施設よつ葉園の森川一郎園長である。
「一鉄先生、お休みの日に済まん。哲郎君は、おいでか?」
「今、ちょうど出かける前みたいで目の前におりますから、代わります」
「たのんます」
哲郎青年は、偶然にも電話の近くにいた。
「森川のおじさんから電話ね。じゃあ、代わります」
彼は、受話器を父親から譲り受けた。
「おお、哲郎、すまんな。今、時間、あるか?」
「大丈夫だけど、何かありました?」
「ちょっと、相談したいことがある。よつ葉園ではまずいとは言わんが、出来れば、ちょっとな、現場に行ってわしらの目で見ておきたいことがある。済まんが、うちの近くにある「窓ガラス」ちゅう喫茶店があろうが。そこに、これから来てくれるか? 珈琲に、何なら昼飯時じゃ、飯ぐらいおごるから、頼めんかな」
「いいですよ。じゃあ、これから行きますね」
哲郎青年はいつもO大学に通うときに乗る自転車に乗り、その喫茶店に向った。
喫茶店「窓ガラス」の目前で、彼は歩いてきた森川園長と合流した。
自転車のカギをかけ、老紳士と、喫茶店の前に立ち止まった。
「すまん、哲郎。急遽、相談したいことができた」
「何でしょうか?」
「君の同級生の三郎の妹、岡山清美さんのことで、ちょっとな」
「清美さんね。彼女は今、市立商業高校に通いながら、下川書房だっけ、本屋さんで仕事しているよね。で、彼女が何かあった? 先日の三郎と太郎君のあの事件の後だけに、実はぼくも、いささか気になっていたのだが・・・」
ちょうど昼時ではあるが、平日ではないので、食事客はこの時間には必ずしも集中していないのは救い。
後世のとあるドラマでの名セリフではないが、実は、森川氏をして「事件」と称したくなる事案が、この店に絡んで起きていたのである。
そう、事件はこの現場で、起きかけているのである。
テーブルに出向く前に、彼らは、店の前の紙に書かれた文字を読んでいた。
実はその文字群こそが、これから森川氏にとって問題となる案件を惹起させていたのである。
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容姿端麗より、気立ての良さを望む。勤務時間等、詳細は店長まで
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