リスクというもの

与方藤士朗

プロローグ ~1枚の急募広告から

第0話 プロローグ ~喫茶「窓ガラス」ウエイトレス急募

急募 ウエイトレス 時給***円~ 賄い付・住込応相談 年齢23歳迄 

容姿端麗より、気立ての良さを望む。勤務時間等、詳細は店長まで


 1957(昭和32)年2月初旬の、ある日。

 岡山市津島町・学生街の喫茶店「窓ガラス」。

 その店のドアの前に、ある広告が貼付された。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 元号が令和となった今ともなれば、「ウエイトレス」とか「容姿端麗」などと言った言葉を乗せようものなら、即座に「アウト」ともなるのがオチであろう。だが、この頃はまだ、そんな縛りはなかった。

 喫茶店の接客に若い女性が従事するのは、ごく普通のこととして、すでに認識されていたから、これを見て、嗚呼、この店は「女の子」が足りていないのか、と、読む人は読み取ったはずである。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 この物語は、その急募広告を勤労少女が見たことによって、始まった。

 なお、彼女はこの喫茶店の近所にある養護施設「よつ葉園」の卒園生で、この当時定時制高校の2年生。中学卒業と同時によつ葉園を退所し、岡山駅前の下川書房という書店に住込んで働きつつ、夜は学校に通っていた。


 彼女はこの広告を見て、ふと、思った。


 いつまでも、のらくら働いて苦しい思いをしているわけにはいかない。

 一刻も早く自らの店を出し、財産を築いていかなきゃいけない・・・。


 かく意を決した彼女は、この喫茶店の面接を受けた。

 面接結果は、まだ保留状態である。


 彼女のこの「応募」は、彼女にかかわる様々な人たちを動かすことになった。

 その経緯を、これから、追ってお話して参りましょう。

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