第60話 死が二人を分かつまで
このお家を建てた方はとても、信心深い方だったのでしょうか?
いくら小さな庵程度の規模しかないとはいえ、敷地内にチャペルがあるお家は珍しいと思います。
「素敵です」
こじんまりとしていても歴史を感じさせる風格が感じられる建物は、いつまで見ていても飽きません。
「アリーさんの方がす、す……何でもありません」
「パパ。へたれか」
「パミュ。そういう言葉をどこで覚えてきたんだ」
「パミュは
本当の親娘のようなやり取りをしているお二人が、微笑ましいです。
今、シルさんは何かを言おうとしてやめたように見えましたが、何でしょう?
気になるところですが、今はやるべきことに集中すべきですね。
今日のシルさんは白いスーツです。
初めて会った時も着ていた物なのでよく覚えています。
白で統一された上下の揃いは上背があって、程よい筋肉の付き具合で引き締まった肉体のシルさんに似合っているのです。
私のドレスも白なんです。
フロントが勝負をする場合、これを着るようにと送られてきたのですが……。
勝負というのでてっきり、命のやり取りをする場合に着る物と勘違いしていました。
勝負にも色々なものがあるのですね。
この白いドレスは今までに着たことのないタイプです。
胸元が見えないようにしっかりと隠した品のあるデザインで肩を出しながらもレースをあしらって、それとなく肌見せは抑えられています。
肘まで覆ってくれる透明感のあるレースの手袋も付けているのでより落ち着いた感じがするのもポイントでしょうか?
裾もバックはミモレ丈で適度に足の肌見せを抑えつつ、フロントは膝上なのが私のことをよく分かっている証拠です。
これなら、蹴りやす……パミュさん、どうして顔色がよろしくないのですか?
どこか、具合が悪いのでしょうか。
「ちがう。ママ。どうどう」
「パミュさん。ドードーは絶滅しましたよ」
「す、すぃ。はぁ」
パミュさんに溜息を吐かれました。
何か、変なことを言ったでしょうか?
ドードーはかつて、南方の島々に生息していた大型の鳥類です。
翼はあるものの退化して、空を飛べないのに動きが鈍重なのであっという間に数を減らして、絶滅したことでも有名なのですが……。
「アリーさん。それでは始めましょうか」
「ひ、ひゃい」
緊張します。
指輪を交換するだけなのにどうして、こんなに緊張するのでしょう。
これで本当の夫婦になるから……ですよね。
手袋を外すだけでも震えるなんて、いけません!
こんなことではいざという時にお仕事でもミスをしそうです。
大丈夫。
私は大丈夫。
勝負ですから、勝負!
「ママ。かおこわい。すまいる」
指輪が載った銀のトレーを持つパミュさんが、お手本とばかりに笑顔を見せてくれます。
にっこりという言葉がぴったりな笑顔ですが、私がやると顔が引き攣りそうなのでやめておきましょう。
とにかく、落ち着かないと……深呼吸です。
「ひっ」
反射的に変な声が出てしまって、ごめんなさい。
我慢はしたのですよ?
でも、無理なんです。
シルさんでなかったら、手が出ていたかもしれません。
シルさんの大きな手が私の左手首を掴み、薬指に銀の指輪をゆっくりとはめてくれます。
緩くもなく、きつくもないぴったりなサイズです。
さすが、シルさんですね。
私の指のサイズまで知っているなんて。
次は私の番です。
幸いなことに手の震えも収まったのでシルさんの左薬指に指輪をはめるのはすんなりと終わりました。
緊張しましたが、私にだって出来るんです。
「「死が二人を分かとうとも永遠にあなたを愛します」」
彼と向き合って、見つめ合いながら、誓いの言葉を口にするとシルさんと本当の夫婦になれたという実感が湧いてきました。
本物の妻ですから。
響きが違います。
私の帰る場所、いる場所はここでいいんですね。
「パパ。ママ。さいごはきす」
「ああ。そうだったかな」
「キ、キス!?」
シルさんの手が両肩に置かれて、彼の顔が近づいてきます。
「む、無理ですぅ!」
シルさんの
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
体が勝手に動いちゃったんです。
こんな蹴りやすいドレスを用意するのが悪いんですから!
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