第59話 私、結婚します

 夕食も終わり、パミュさんをお風呂に入れて、寝かせました。

 シルさんもお風呂に入ったのでゆったりとした部屋着に着替えて、リビングのテーブルで二人で寛ぐのが日課になっています。


 本当に夫婦なら、水入らずの時間でしょうか?

 私達はまだ、本物の夫婦ではないのでどう考えればいいのか、難しいところですが……。


「明日も休みですね」

「ええ。休みが続くと逆に不安なのはなぜでしょう」

「奇遇ですね。僕ですよ」

「シルさんもですか」


 不思議です。

 こんなにものんびりとした会話をしていて、いいのでしょうか?


 今日は午前中いっぱい保育所の下見をしてから、ランチと慌ただしい一日でした。

 でも、充実した楽しい一日でもありました。

 幸せでもいいのでしょうか?


 夕食もシルさんが腕によりをかけて、魚介類をふんだんに入れたスープに新鮮な白身魚の切り身を使ったムニエルとマリネと……え?

 私はなぜ、やらないのかが不思議でしょうか?


 野菜や魚をきれいに切ったのは私です。

 切るのは任せてください。

 何等分にだって、細切れにだって!

 その時、パミュさんの顔が真っ青になっていたのがなぜかは分かりませんが。


 でも、その他のことはまだまだ、ダメなんです。

 ようやく、目玉焼きが焼ける程度では、味付けや調理はシルさんにお任せした方が安全です。


 ティナの話では狭いキッチンで旦那様と密着しながら、お料理をすれば何も問題がないそうですし、ドキドキしながら読んだロマンス小説にもそういうシーンがありました。

 憧れる気持ちはありますが、無理です……。

 違う物まで切ってしまう自信があります。


「アリーさんは……」

「はい?」


 あの紫水晶アメジストのように透き通る薄紫色の瞳に見つめられるとロマンス小説を読むのよりもドキドキして、苦しいのです。

 以前、お仕事の時に見た紫水晶アメジストは、思わず我を失うくらいに言い知れないどす黒いものが心の中で目覚めたのですが……。

 何が違うのでしょうか?

 私にはよく分かりません。


「見ていて、飽きません」

「えぇ? そうなんでしょうか。ティナにも言われたことがあるのですが、そんなに変ですか?」

「アリーさんはその……か、可愛いですよ」

「はぇ!?」


 そう言って、くつくつと笑うシルさんはずるいです。

 顔がいいと何を言っても何をしても許されるそうです。

 シルさんもきっと、それですね!


「そういうところが可愛いんです」

「は、はい。シルさんもかわいいですよ?」

「アリーさん。飲みましたか?」

「飲んでませんけど?」

「そうですか」


 毎日、このやり取りをしているのに飽きません。

 本当に不思議です。


 これが夫婦ということでしょうか?

 家族ということなのでしょうか?

 分かりません。


 分からないけど……シルさんの申し出を受けてみたら、もしかしたら、その答えを知ることが出来るかもしれません。

 そうしましょう。


「シルさん。結婚しませんか?」

「は?」


 「また、飲んだかな」という失礼な言葉が聞こえた気がするけど、シルさんの驚いた顔が見られたので許します!

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