閑話 夕暮れ極秘ファイル②
(三人称視点)
リューリク公国に関する事項
十八年前、この世から姿を消した東最後の封建君主国家・リューリク公国最後の公女エリザヴェータ。
彼女を確保することでタウリカの半島を不当に占拠し、自治権を主張する自由共和国との交渉を有利に運ぶことが可能になるだろう。
自由都市同盟にとっては東への楔となる
しかし、その為にはエリザヴェータ公女を確保するだけでは足りない。
彼女の意思で自由都市同盟の味方となるべく、誘導しなければならない。
その為にはリューリク公国が最後の日を迎えるに至った
リューリク公国が世界でも有数の古い歴史を有する古王国であることは間違いないだろう。
リューリクは初代公王がアールヴ――
これは世界的にも非常に特筆すべきことである。
実際、歴代の王族の中には先祖返りとも言うべき、特殊な魔法の技を持つ者がいたらしい。
最後の公王ニコライは容姿こそ、先祖のアールヴに比せられるものだったがそういった技能を持ち合わせていなかった。
妃であるアレクサンドラは王の遠縁にあたる女性だったが、彼女にもそのような技能が覚醒していたという記録はない。
二人の間に生まれた最後の公女エリザヴェータには幼少時から、先祖返りの片鱗が見えていたとされている。
ニコライは温和な性格であったと伝えられている。
あまりにも善良な性質ゆえ、王には向いていなかったとリューリク出身の者からの証言でも語られている。
時にヒステリックとも称される勝気な妃アレクサンドラに公私にわたって、引っ張られていたというのも有名な話のようである。
しかし、アールヴの血を引く美しき公王一家に輝かしい未来が訪れることは無い。
自由を求める民衆により、革命が起きた。
彼らの旗頭として、頭角を現した一人の男がいる。
ヴラジーミル・ウリツキー。
リューリク出身と称する舞台俳優であり、公国の体勢を批判する内容の劇で民衆の人気を集めていた。
やがて民衆をまとめ上げたウリツキーが作った組織が国民党である。
国民党は公王ニコライに退位を迫り、穏健で争い事を好まない彼は王城を去り、田園地帯にある寂れた離宮へと移った。
実に平和的な革命による国家体制の変革であったと言える。
これはリューリクが国としての形を失う一年前の出来事である。
リューリク共和国の代表となったウリツキーが行ったのが国家政策の転換だった。
そして、リューリクは破滅への道を歩み始める。
当時、既に東の大半の地域を傘下に収め、もっともリューリクに影響力を及ぼす存在は自由共和国だった。
ニコライが治めていた時代は融和政策を取り、衝突することがなかったリューリクだが、ウリツキーの転換により強気の政策へと変じた為である。
古来より紛争の種となっていたタウリカ半島を巡る諍いにより、自由共和国を挑発する態度を崩さないウリツキーを追放するという名目で自由共和国の軍が動きを見せた。
国境線に展開された第一陣の三万の軍勢が物見により、報告をされてもそのようなものはないとウリツキーは一蹴した翌日、第一陣が国境線を突破する。
侵攻されることを全く、予期していなかったリューリクは次々と重要拠点や町を陥落され、タウリカも自由共和国に占拠されてしまったのである。
国土は戦火に焼かれ、多くの難民が生れることになった。
ウリツキーは都クーウにおいて、徹底抗戦を叫ぶと国民全兵の構えを取り、最後まで戦い続けたとされている。
(ただし、彼の最期を見届けた者は誰もいない。生死不明であり、その動向は伝わっていない)
自由共和国の侵攻による混乱のさなか、元公王ニコライ一家にも
王城を退去する一家に付き従った僅かな忠臣にのみ、守られていた一家は謎の兵団の手により、惨殺された。
公王ニコライは妻子を守ろうと全身に矢を射かけられ、壮絶な死を遂げた。
妃アレクサンドラは侍女であるウリツキー夫人アリアードナに娘エリザヴェータを託した後、捕らえられて、書くのも
アリアードナはエリザヴェータをリューリクの双璧と呼ばれた二人の騎士に託すと時間を稼ぎ、自らの身を犠牲にしてエリザヴェータの逃亡を助けたと伝えられている。
この二人の騎士により、リューリクより落ちのびた最後の公女が、生存しているという説は当初より、囁かれていたが確たる証拠がなかった。
自由都市同盟が
そして、全ての情報をピースとして揃えた結果、浮かんできた公女と思しき女性こそが『黎明の聖女』と呼ばれる暗殺者『薔薇姫』であることに疑いの余地はないだろう。
特記事項
一点、気になる事項がある。
妃アレクサンドラが臨月に入っていたという証言である。
もし、この証言が事実であるならば、リューリク公家の血を引く者がもう一人いるという可能性を示唆している。
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