閑話 夕暮れ極秘ファイル①

(三人称視点)


 ハンマブルクの盗賊ギルドに所属する工作員ナイト・ストーカーであるシルヴィオ・ジェレメントことアーベント夕暮れ

 彼が青い鳥作戦オペラツィオーン・ブラウアーフォーゲルにあたって、本国に送った調査報告書から、気になる項目を抜粋しよう。




自由共和国の内情

秘密組織カーズニ処刑


 自由共和国は秘密主義を是としている。

 我々、同盟諸都市に対しては表向きの姿しか、見せていない。

 自由な意思で生きることが出来る。

 自由に職業を選択することが出来る。

 自由な考えを持ち、自由に意見を述べることが出来る。

 建前ではそうなっている。


 しかし、実際にそうでないことは明らかである。

 政府を少しでも批判する素振りを見せたら、どうなるのか。


 その影響があまり大きくないと判断された場合、その者はまだ運に見放されていない。

 警務団――自由共和国における騎士団に相当する組織――に連行されるだろうが、命は助かるかもしれないからだ。

 人としての尊厳を奪われ、背筋の凍るような拷問を受ける可能性は高い。

 だが、まだ共和国の民である者の命までは奪わないとみて、間違いないだろう。


 しかし、影響が大きいと判断された者に待ち受ける末路は悲惨である。

 ここで動くのが政府に属しながら、一切が秘密のベールに包まれたカーズニ処刑ということになる。

 この組織は自由都市同盟では既に解体された非合法組織である暗殺ギルドに良く似ているようのである。


 組織に所属している者は過酷な訓練を生き抜いた選りすぐりの暗殺者であり、その戦闘力は計り知れないものと思われる。

 自由都市同盟が七悪セブンヴァイスという秘匿名を与えている存在はその中でもトップクラスの七人である。


 その中で把握されている者は薔薇姫プリンチペッサ・ローザ悪夢カシマールの秘匿名を与えられている暗殺者アサシンの二人だけとなる。


 悪夢カシマール

 自由共和国内での秘匿名ということが判明している。

 セレス王国での秘匿名はインクボ。

 カーズニ処刑の暗殺者は一切の証拠を残さない手際の良さで知られている。

 その中でも群を抜いて、正体は不明。


 その姿、年齢、性別すらも全く、分かっていない。

 このカシマールに関して、判明していることは遠距離から、何らかの手段を使って、標的を文字通り、ということだけである。


 先日、発生したコンスタンチン・モロゾフ議員襲撃事件に際し、くだんの黎明の聖女と交戦している姿が初めて、目撃されている。

 おおよそ人間とは思えない動きを見せているから、別の可能性を検討すべきだろう。


 薔薇姫プリンチペッサ・ローザ

 自由共和国ではプリンツェッサ・ローザの秘匿名で呼ばれている。

 セレス王国内でもっとも活発に動いている暗殺者とみて、間違いない。

 これまでに判明したの当事者を消している。


 その姿はカシマール同様、謎に包まれていたが『姫』という秘匿名から、女性であることは推察されていた。

 意外にも薔薇姫の姿を捉えることに成功したのは新聞記者である。

 燃える炎のような赤い髪の美しき乙女。

 『黎明の聖女』と命名され、救国の志士と持ち上げられた人物こそ、薔薇姫であることは疑いようがない。

 新聞の記事である以上、いくらかの誇張が入り混じり、脚色されてはいるだろう。


 だが、『薔薇姫』が『黎明の聖女』であると仮定すれば、辻褄が合うことは否めない。

 青い鳥作戦オペラツィオーン・ブラウアーフォーゲル青い鳥ブラウアーフォーゲルである可能性も高い。

 以上の事実から、『黎明の聖女』が現れる舞台を整えた。

 主演女優は舞台を気に入ってくれたが、彼女の実力はこちらの予想を遥かに上回り、説得には時間と労力を要すると思わざるを得ない。

 身体能力の高さは言うまでもなく、特殊な技を使うことも確認された。

 戦闘力は軽く見積もっても剣聖ソードマスター以上であると判断される。

 注意されたし。

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