第30話 彼と彼女と出かけた
意識を失っていたのは三日間。
目が覚めてから、丸一日たっぷりと体を休めました。
これは半ば強制的なもの。
シルさんもパミュさんも私が、ちょっと何かをしようとしただけで止めるのだから。
「こんな感じですが、よろしいでしょうか?」
「よ、よろしいと思いますよ?」
髪留めを普段、使っていたヘアバンドから、リボンの飾りがついたカチューシャに変えました。
勿論、髪の色が珍しくて目立つので下ろさずにまとめてアップにしてあります。
服は裾丈が長く、膝下まであるワンピースを選びました。
淡い色合いのクリームイエローなので目立ちもしないし、地味という訳でもありません。
気になるのは少々、胸元と背中が空きすぎていて、大胆なデザインな点かしら?
シルさんも何だか、おかしな態度ですし、まずかったのでしょうか?
「ママ。それでいい。パパもそうおもてる」
「そ、そうなんですか、パミュさん?」
「うん。パミュ、
よく分かりませんが、私よりも義父と娘としてそれなりに長い時間を過ごしているパミュさんが言うのですから、間違いないでしょう。
それから、私達三人が連れ立って、向かったのはパラティーノでもっとも大きな商店であるエ・ウンポ・カーロ百貨店。
まるで本物の夫婦と親子のようにパミュさんを真ん中にして、手を繋いで歩いているのですが、これも周囲から怪しまれないのが目的。
しかし、偽りの関係であっても私にはかけがえのないもの。
私にも家族はいた……と思います。
たまに夢で見るんです。
顔も朧気にしか、分かりません。
「ママ。どした?」
「何でもありませんよ」
ふと嫌なことを思い出しただけ。
こういうときはお仕事のことを考えましょう。
仕事着はフロントから支給されるので気にしたことがありません。
「出来れば、返り血が目立たない物が望ましいでしょうか」と言ったら、真っ黒なドレスしか、送られてこないだけ。
ただ、それだけのこと。
問題は何もありません。
黒いドレスであれば、どんなに返り血が飛んでも大丈夫なのだから!
「ママ……つよく
手を繋いでいるパミュさんにとても、生温かい目を向けられたのですが……。
なぜでしょうか?
まずはパミュさんの普段着と外出着、礼服を買いに子供服の売り場へと向かいました。
男児服と女児服で分けられているだけではなく、インナーとアウターの売り場も別に設けられています。
見ているだけで日が暮れるのではないかと思えるほどに様々な商品が並んでいて、見ているだけでも楽しいです。
「うわぁ。凄く、広いんですね」
「アリーさんはあまり、来たことがないのですか?」
「は、はい」
あまりではなく、実は一度も来たことがないのは内緒です。
そんなことを言ったら、シルさんに嫌われてしまうかもしれません。
名義上だけであっても少しくらいは出来る女であるというアピールをしないと……。
でも、具体的に何をすれば、いいのでしょう。
「ママ……
「え? ええ、また!?」
またも心の内を見透かされたような妙な感覚。
パミュさんの視線はなぜか、とても大人びてます。
不思議な感覚……。
パミュさんはまだ、幼いので自分でも簡単に着替えが出来るワンピースを主体に選び、シルさんがコーディネイトしました。
私とパミュさんが選ぶと日が暮れても終わりそうにないからです。
あれもいいし、これもいいと目移りするのが原因でしょうか。
「次はアリーさんの服を選びますよ」
「えぇ!? わ、私はいいです。今の服でも十分……」
「約束しましたよ? 貴女をエスコートすると」
彼は実に卑怯です。
そんな言い方をされたら、断れないじゃない?
なんて、嘘。
本当はシルさんと服を選ぶのが、嬉しくて仕方がないのに……。
私ったら、馬鹿みたいですね。
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