第24話 傷だらけの薔薇
出来れば、やりたくありません。
誰だって、痛い思いをわざわざしたいとは思わないでしょう?
伸ばしていた
多少、身体に負荷はかかるけど、目一杯の身体強化を掛けます。
二倍も掛けるのは初めてです。
これ、暫く動けなくなるかも……。
「愚かでおじゃる」
上げた脚力で思い切り、加速して一気に槍使いとの間合いを詰めます。
槍使いは一瞬、驚きの表情を浮かべて、すぐに収めると冷徹な笑みとともに鋭い一突きを放ちました。
読み通りです。
「獲ったでおじゃるよ」
「くっ」
痛い……。
いくら
でも、これが私の狙いです。
穂先を深く、突き刺してもらって、相手の身動きを封じる。
肉を切らせて骨を断つ、という格言が遥か東方の国にあるそうです。
つまり、これなら、遠慮なく相手を
そういうことですね。
「ぬ、抜けないでおじゃる」
「残念でした。それではごきげんよう」
致命傷を避けるべく、
臓器の隙間を縫うように刺される。
中々、難しい芸当でした。
でも、こうなった以上、私の方が有利です。
間合いはもう関係ありません。
両手の
素材が余程、いいのでしょうか?
骨にひびが入った気がします。
手の骨の心配よりもお腹に深々と刺さっている槍の方が問題なのだけど、どこか
おかしいでしょう?
自分から、刺さりに行っているんですから。
「やるでおじゃるな」
確かに手応えはありました。
投げつけた
それなのに得物の槍を失った男は平然とした顔をしてました……。
「我が名は
驚かざるを得ません。
判断力、身体能力。
どれもが今までに戦った相手と比べられない程に高いのです。
この前、戦った黒い人が本気を出してくれたら、どちらが上か、分かりませんけど。
「さすがに無理ね」
フォフォフォフォという耳障りな笑い声を上げながら、夜の闇へと消えていった槍使いを黙って、見送るしかありません。
致命的なダメージを避けたとはいえ、かなりの激痛です。
出血が酷くて、意識も朦朧としてきました。
止め処もなく、血が滴り落ちていて、危険な状態なのは自分が一番、分かっています。
「ふぅ……」
乱れていた呼吸を整えて、
とはいえ、失われた血液は戻りません。
お腹には槍が刺さったまま、これが問題です。
抜く時の激痛を思うと憂鬱になってきます、
気が進みません。
「シルさんに何て、言えばいいのかしら?」
空に浮かぶまん丸なお月様をぼんやりと見上げると胸に去来するのはどこか、歪な思いだけでした。
それだけでも言い訳が苦手な私にはどう説明すればいいのか、分かりません。
さらに血の汚れまであるのだから、どうしましょう……。
優しいシルさんのことです。
一体、何があったのかと心配してくれるのでしょうか?
「はぁ……どうしましょう」
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