第17話 心に刺さる棘
やがて開き切った壁の隙間から、小さな影が躍り出てきました。
子供? 女の子?
肩の辺りできれいに切り揃えられているミルキーブロンドのボブヘア。
目尻がやや下がった垂れ目気味の大きな目の中に青味がかった灰色の瞳が生き生きと輝いています。
とてもかわいらしい女の子です。
でも、こんな場所にどうして、小さな女の子がいるのでしょうか?
おかしいでしょ!
「やっぱり、お化けええええ!」
「我こそはかの偉大なる錬金術師パラケ・ルッスースが創りし最高傑作パル……ぎょえー」
何だか良く分からない呪いの言葉を言い始めたから、間違いないわ。
本物のお化けです!
気が付いた時には体が動いていました。
染みついた暗殺者としての
でも、相手はお化けですから、まだいるんでしょうか?
「ア、アリーさん。これはちょっと、やりすぎですよ」
「ええ?」
まだ、片手で鼻を押さえているシルさんのやや呆れたような声に恐る恐る目を開けるとそこには、目を回して床で伸びている小さな女の子の姿がありました。
消えてない。
消えないということはお化け……ではない?
「すみませんでした……私のせいで」
「いえ。アリーさんのせいではありませんよ。僕がもっと、貴女のことを知っていれば、避けられたことです」
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
何度目か、分からないけど、心の中で謝っているだけでは居たたまれなくて、彼に癒しの魔法をかけています。
「珍しいですね。癒しの魔法は希少だったと思いますが……」
「私の
「そうですか。それでも十分ですよ。アリーさんの魔法はとても、気持ちがいいです」
自嘲気味にそう吐き出した言葉にそんな返しが来るとは思ってませんでした。
どう返せばいいのか、分かりません。
軽く、笑みを浮かべて、「そうでしょうか」とでも言えば良かったのだとは思うんです。
実際には言えないのですが。
はにかむような笑顔を返せれば、それが一番なのでしょうけど……。
「もう痛くはないですか?」
「ええ。お陰様で」
そう言って、バツが悪そうに左手で頭をかこうとしたシルさんが僅かに顔を歪めた。
「シルさん。もしかして、左手を怪我されてませんか?」
「ああ。これですか。掃除をしている時にちょっと捻ってしまいまして」
「まぁ。それも私に任せてくれませんか?
シルさんが遠慮がちに左腕の袖をまくって、見せてくれた前腕には確かに痣がありました。
青紫色の痣が前腕のそこかしこに付いています。
何をどういう捻り方をしたら、こんな痣が付くんだろうと不思議に思いながらも一人で掃除をしているシルさんの姿を頭に思い描くと許せてしまいます。
なぜでしょう。
不思議な気分です。
でも……左手なの?
心のどこかに小さな棘のように軽く引っかかるものがなかったとは言えません。
「はい。これで大丈夫だと思います」
「ありがとうございます」
心配するような重症ではなかったようです。
打ち身に近い怪我だったから、私の
捻ったというよりは転んだりして、どこかで打っただけなのでしょう。
きっと私の考えすぎなだけです。
二枚目だと虚勢を張らないといけないものなのかしら?
そう考えると顔がいいのも考え物ですね。
「それであの子は一体?」
「ああ。あの子ですか……」
私がお化けと間違えて、つい思い切り、突き飛ばした小さな女の子。
謝罪の意味も兼ねた
軽い脳震盪を起こしているのでしょう。
ソファに寝かせていた女の子がのっそりと立ち上がると私とシルさんの顔を忙しい様子で見ています。
そんなに首を振ったら、首がおかしくなるのでは? と心配になるくらいです。
彼女のアッシュブルーの瞳が真っ直ぐに私を見ていました……。
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