第13話 私と彼のお家はお化け屋敷!?

 今日は冒険者ギルドでのお仕事をお休みしました。

 シルさんと途中で落ち合ってから、新居の方に荷物を運ぶことになっていたからです。

 さすがにお引越しということでギルドの方も融通を利かせてくれた感じでしょうか。


 シルさんも「商業ギルドの仕事は休みですから」と言っていたけど、それは多分、嘘です。

 何かと私のことを気遣ってくれる人だから、引っ越しの為に休暇を取ってくれたのではないかと思っています。


 容姿端麗でお仕事も出来て、こんなに気遣いが出来る人が私を選んだ理由が本当、分かりません。

 どうしてなんでしょう?


「アリーさん。荷物は本当にこれだけですか?」

「ええ。これだけです」

「少ないんですね、荷物……」

「そうなんですか?」


 呆れられている?

 女子力という意味で考えたら、荷物がこんなにも少ない女では女子力が皆無と思われても仕方ありませんよね。


 服は持っていないし、家具類も何も無いんです。

 だって、いらないんですから。

 お洒落と無縁という言葉では済まないですが、必要なかったんです。


「分かりました。今度、一緒に買い物に行きましょう」

「何を買うんですか?」


 小首を傾げて、そう尋ねるとシルさんは眉尻を下げて、明らかに困ったような表情になりました。

 どうして、そんな顔をされるんでしょう?


 あっ、分かりました。

 例え、契約上の妻に過ぎなくてもみすぼらしいと困るのでしょうか。


「僕に任せてください。アリーさんをエスコートしてみせますよ」

「エスコート? ええ? 何の話ですか?」

「デートですよ。一応、表向きにも夫婦であることをアピールしないといけませんからね。これも誓約の一環と考えてください」

「えええ!?」


 危ない。

 危うく荷物を全部、落とすところでした。

 二枚目の爽やかな笑顔は心臓に悪いのですが……。




 乗り合い馬車に乗って、向かったのはパラティーノの郊外です。

 市内は整然とした区画で完成された都市のパラティーノですが、郊外のやや寂れた田園風景も悪くないですね。

 そんな田園の中にこれから、住むことになる新居がありました。


 手入れが行き届いていない生垣。

 古ぼけた石塀。

 雑草が伸び放題のお庭。

 どうやら結構、広い敷地を持つ一軒家みたいです。

 二人で住むには広すぎるようにも思えます。


 豪邸にしか、見えません。

 これはお屋敷ですね。


「あの……ここが本当に? ええ……」

「お得な物件だったのです。これだけの敷地があって、この建物ですからね。年代物なのが厄介なところですが、それを手入れするのも楽しいかもしれませんよ」

「でも、何だか……お化け屋敷みたいですね」


 確かに豪邸ですよ?

 お屋敷ですよ?

 古そうで広いから、お買い得なのも分かります。

 かつて、それなりにお金を持った人が建てたと考えるのが妥当だと思うくらいに趣向が凝らされてますから。

 ただ、古びて趣きがあるのと何かが出そうなのは違うと思うんです。


 老朽化して、あちこちの傷みが激しいので絶対、何かが出てきそうです。

 ネズミとか、虫ではなく、もっと違う何かが出そうという雰囲気が凄いんですから……。


「シルさん。もしかして、出たりはしませんよね?」

「え? 何がですか?」


 怪訝な顔をするシルさんは分かっていません。

 こんな場所には出ると相場が決まっています。


 しかもお買い得物件だったということはもしかして、瑕疵物件だったのではないでしょうか?

 や、やはり出るのでは……。


「お、お、お化けなんて、出ませんよね?」

「あ? お化け……ですか。どうでしょう。この邸宅はかの有名な錬金術師のパラケ・ルッスースの別荘だったという話です。何でも入居者が出ても、すぐに出て行ってしまうと……大丈夫ですか、アリーさん?」

「そ、それ、出ますよね? 出ちゃいますよね?」


 想像するだけでも怖くて、無意識のうちにシルさんの腕にピッタリと体をくっつけるようにしがみついていました。

 だって、怖いんだもの……。


 お化けよ? お化けが出るわ。

 生者は命の灯を消せば、おしまいだけど、亡者はそうはいきません。

 昔から、苦手なんです。


 シルさんは私にしがみつかれたせいか、眉を下げて困ったような表情をしています。

 本当、ごめんなさい……。


「大丈夫ですよ。僕がついていますから。お化けが出ても僕に任せてください。商人の舌は何枚もあるものです。お化けが出ても帰ってもらいますよ。だから、安心してください」


 シルさんはそう言うと幼い子供をあやすように頭を優しく、撫でてくれました。

 なぜかは分からないけど、彼の大きな手で撫でてもらうと不思議と心が落ち着くのです。

 手から感じられる人の温もりが、安心感を与えてくれるのでしょうか?

 自分でも不思議で仕方がありません。


 もしかして、昔、同じようなことをしてもらったのでしょうか?

 どこで? 誰に? 私のちぐはぐな記憶はところどころが欠けていて、いびつなんです。


「まずは荷物を入れて、掃除をしましょうか。その前にちょっと、休みますか?」

「はい」


 私が落ち着きを取り戻したタイミングを見計らってくれたみたい。

 シルさんの遠慮がちな言い方が嬉しい。

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