第14話 初心者夫婦はぎこちない
私が持ってきたのは手荷物程度しか、ありません。
引っ越しと言っても荷物の搬入というほどの作業はなく、あっという間に終わりました。
「僕の部屋はここなのでこちらの部屋がアリーさんの部屋ということでよろしいですか?」
「はい。かまいません。私は寝られるスペースがあれば、どこでも大丈夫ですよ?」
「そうですか……」
見る間にシルさんの眉間に皺が寄って、目頭を押さえています。
疲れ目? 頭痛?
それとも……色々と要因はありそうだけど、急にどうしたのかしら?
「アリーさんはこの家の女主人です。僕の……妻なのでそういう扱いは出来ません」
「はい。分かりました。そういうものなんですか。大変なんですね、夫婦って」
「そうですね……」
シルさんったら、今度は深い溜息まで吐いている。
きっとお疲れなのね。
こういう時、妻だったら『シルさん。あなた、疲れてますね』と労わるべきなのかしら?
それも変かな?
「荷物を置いてきますね」
逃げるようにあてがわれた部屋に向かいました。
私のせいでシルさんが思い悩んでいるように見えて、どうすればいいのか分からなかったんです。
「へぇ」
以前、借りていた集合住宅の寝室に比べるとずっと広い部屋です。
軽く、二倍の床面積があるかしら?
衣装箪笥や小物類を収納出来る家具も既に備え付けてあるし、えらく乙女チックで豪華な造りのお姫様が眠るようなベッドまで設置されています。
シルさんが見繕ってくれたのでしょうか?
悪くありませんどころではなく、私好みの落ち着いた雰囲気の部屋です。
ウォーキングクローゼットに出入りが楽そうな大きな窓まであります。
本当に希望通りの部屋を用意してくれたようです。
床までピカピカに磨かれていて、外観のお化け屋敷からは想像出来ないほどにきれいになっています。
シルさんが掃除してくれたのでしょうか?
私は身の回りに頓着しません。
だけど、きれいにするのは好き。
掃除には自信があったのですが、こんなにきれいに出来るのかと言われると負けたと認めざるを得ません。
「シルさんは凄いです。お部屋がとても、きれいでビックリしました」
荷物を入れて、共有スペースになっているダイニングキッチンに向かうとシルさんは一人掛けのソファに腰掛けて、辞書のように分厚い冊子に目を通していました。
素直な賞賛の気持ちを言葉にしただけですが、シルさんはちょっと照れるような仕草をしてくれます。
大人の男の余裕みたいなものでしょうか?
それだけでも様になってしまうんですね。
「今、お茶を淹れますね」
「それは私が……」
「いいえ、僕が……」
ティーポットに手を伸ばしたら、シルさんの手と触れてしまいました。
慌てて引っ込めてしまいましたが、シルさんも驚いたのでしょうか?
伸ばしていた手を戻して、所在なさげにしています。
気恥ずかしさの方が上回って、互いに目を逸らしているこの状況は何なんでしょう!?
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