第10話 惑う薔薇姫
表の仕事で出会った
おまけに口裏を合わせる為に会った三回目の
「ふぅ。これでおしまい。思った以上に荷物がないわ」
結構、長い付き合いだった私の部屋。
長くいたのにそれほどの思い入れがないのは生活感の欠片も感じさせない雰囲気のせいかしら?
表の為に着る普段着とお仕事で着る正装。
必要最低限の服しか、持っていないので箪笥のような家具類は一切、ありません。
料理は
ないないのない尽くしなのです。
寝る為というよりも体を休めるだけにあるベッドだけがこの部屋で存在感をアピールしています。
シルさんが新しいベッドを用意してくれるので
「同じ屋根の下で他人と……男の人と一緒に大丈夫かしら」
あれは同居を提案されたのではなくて、ほぼ脅迫ではないでしょうか?
同居をするように無理強いされた感じがします。
入籍もそうだし、同居もそう。
シルさんは紳士的なようでいて、結構、強引で大胆な人。
そんな感じを受けます。
それでも何だか、抗いがたいものがあって、つい言うことを聞いてしまう自分がいるのだから、困るのですが……。
彼のことを考えると自然と血流が上がって、顔が熱くなってきます。
心無し、口許も緩んでいる気がします。
どうにもいけません。
もしかしたら、病なのかしら?
でも、特にどこかが痛い、悪いのではないんです。
今までも極力、他者に体を見せないように生きてきました。
どこから、秘密が漏れるか、分からないのだから。
我慢しましょう……。
「今日が独身最後……ではないけど。一人暮らしで最後のお仕事ね」
何かが変わる訳ではありません。
共犯者と同居するだけと考えれば、いいのだ。
どうということはないですね。
仕事着に着替え、髪を下ろして、窓から夜の帳に覆われた永遠の町へと繰り出します。
走り抜けるのが好き。
飛び降りるのも好き。
夜の涼やかな風に身を任せられるこの時間が好きなんです。
「罪深き者よ。汝らに慈悲を与えましょう」
着地するついでに罪人の首に
いいです。
この感触が堪りません。
命を奪うことで生きていることが実感出来るんですから。
動かなくなり、邪魔な体に蹴りを入れて、弾き飛ばします。
邪魔ですからね?
耳障りな骨が砕ける音とともに罪人の体が吹き飛び、壁に血の華が咲きました。
「きれいな壁飾りね。次はどなたが相手?」
「聖女だと!?」「馬鹿な」という愚かしくも意味の無い言葉を吐くだけで全く、面白くありません。
軽く、身体強化の魔法をかけているだけ。
全然、本気ではないのに……。
本当につまらないです。
「悔い改めなさい」
「ま、待ってくれ。頼む。助けてくれ」
「それではごきげんよう」
腰を抜かして、動けなくなった相手の首筋を
全く、面白くないわ。
今までに感じたことの無いような激しい殺気……いいえ、これは威圧感ね?
その場に居続けるのは危ない!
咄嗟に床を思い切り蹴ってから、身を捩り体を反転させながら体制を整えました。
「罪深き方々は既に皆さん、改心されました。あなたはどちら様なの?」
フードを目深に被って、口と鼻を隠す覆面をした黒尽くめの男がそこに立っていました。
背はかなり高いようです。
体つきが分かるぴったりとした材質の軽装の装束を着ています。
鍛え上げられたことが明らかに分かる肉体の持ち主です。
油断なく、私の方に向けられている両手持ち
やりますね。
只者ではないようです。
「もしかしなくても、どうやら君が噂の『黎明の聖女』様のようだね?」
「私は一度もそのような名を名乗ったことはないのだけど」
「
「…………」
この男は一体、何者?
もしも、偶々、私のお仕事の現場に居合わせたのであれば、その人はとても運が悪い。
そうとしか、言いようがないでしょう。
そうでないのなら?
私を狙って現れたと考えるのが、妥当だわ。
間合いを取ってから、一気に身体強化の魔法の負荷を上げて、両手に
隙が無い……。
これでは動けません。
あまり、時間を取られるとこの場を離れるのが難しくなることでしょう。
それはあちらも同じはずなんだけど、そうではない?
面倒な……。
ならば、動くしかないわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます