Fの話

Wkumo

電話

 ずっとFのことが気になっていて、それで俺はFに電話をかけた。

 電話ってのも古い連絡手段で、今時はメッセージアプリでやりとりするのさ。

 とFは言っていた。

 Fは同期で、出席数が足りず二年留年して俺と同じ学年になっている。

 精神的な問題があって、休学していたと聞いた。

 そんなFはやっぱりいつも不安定で、しかし表に出る態度は無理して明るく努めているようだった。

 友人なのだから頼ってほしいと俺は思うが、Fは他人に迷惑をかけるのが申し訳ないようで、なかなか頼ってはくれない。

 だから俺は電話をかけることにした。

 

 俺も昔は精神的な問題があって、Fのことは勝手にわかっているつもりでいた。

 しかしたぶん、それがいけなかったのだと思う。


「世界中が俺を見てる気がして、つらいんだ」

「そうか、つらいんだなあ」

「つらいんだなあって他人事みたいに言うじゃないか。俺は君のそういうところが……」

「すまん……」

「あ……いや、俺こそごめん……俺はなんてことを」

「いいよ、大丈夫だよ。俺は……」

「いや、申し訳ない……今日はもう遅いから寝てくれ」

「だが……」

「ほんと申し訳ない……」


 そう言って、Fは電話を切ってしまった。

 俺の方こそFに対して申し訳なくて、電話に向かって頭を下げたい気持ちだった。

 他人事のようにコメントしてしまったのはひょっとすると、俺がそのことから距離を取りたいからかもしれなかった。

 再び「そう」なるのが怖いのだ。

 触れさえしなければ、離れていられる。

 離れていられれば、忘れられる。

 そうすればもう、戻ることはないんじゃないか、なんて。

 おそらく、人間としては当然の感情……なんだろう。でも、今のFに対してそれは、してはいけないことであったのだろうと思う。

 

 Fは翌日、大学に来なかった。

 俺は昼休みにFの家に行って、Fを引っ張り出した。

 俺がFの友人に相応しくなくても、それはそれとしてやっぱり俺はFのことを避けきれなくて、関わり続けるのだと思う。

 

 それが救いかどうかは俺にはわからないし、ひょっとすると俺は俺を救おうとしているのかもしれない。

 わからない。

 でも、俺は明日もFのことを気にするのだろう。

 そんな話。

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