第61話 勇者の正体

 そう、アスラ、私の父ちゃんの名前だ。

 父ちゃんは、弱い私とかあちゃんをいつも見ていてくれた。

 モンスターと戦っても私と、かあちゃんが怪我をしたことが無かった。


 今日それが、どれだけ難しいことかわかった。

 私は危うく、エマさんとライファさんを死なせるところでした。

 父ちゃんは、片時も目を離さず細心の注意を払って、私達を見ていてくれた。そして守っていてくれた。


 ――一緒の時、もっと甘えてあげればよかったな。父ちゃんの喜ぶ顔がみたいなー。




 私は、正直に2人に父ちゃんの事を話すことにした。


「エマさん、ライファさん、聞いて下さい」


「はい」


「私のお父様の名前は、アスラです。正義感が強いくせに、悪人を自分の手で殺すことも出来ない、優しいお父様。名前は天神の勇者アスラです」


「えーーーーっ」


 二人は驚いて口を押さえている。


「天神の勇者の悪名は、知っています。でも、私は全く信じていません。そんな人で無いことを、知っているからです。出来れば二人も信じて貰えませんか、私のとうちゃ……お父様の事を」


「申し訳ありません。知らなかったとは言えイルナ様のお父様を悪く言ってしまって……」


 二人は目に涙を浮かべ謝ってくれている。


「大丈夫です。でも2人に言われるとこたえました。好きになってとは言いませんが、私の前で言うのは控えていただけたら嬉しいです」


「二度と言いません。一度、事の真偽を探ります」


 私は首を振りました。

 世界中に広まった父ちゃんの悪名。こんなことが出来るのは、相当に大きな力を持つ複数の権力者だ。

 下手に嗅ぎまわれば二人の身が危ない。


「それは、やめて下さい。二人の身が危なくなります。私は二人が信じてくれたのなら、それでいいですから」


 私は、心の底からの笑顔をして、二人を見つめた。


「……はわわわ、は、はい」


 二人の顔が真っ赤になり、うつむいた。


「あの……」


 灰色のモンスターが、恐る恐る話しかけてきた。


「はい、何でしょう」


「ゴブリン達は、アスラバキにしてあります」


「はーーっ、アスラバキーー?」


 私達は、何のことかわからなかった。


「あの、骨をバキッ、バキッ、っと折って、行動不能にすることです」


「それはわかりましたが、それがどうしたのですか」


「はい。生きているので、とどめを刺して下さい」


 このモンスターは私達が、経験値を稼げるように、生かしておいてくれたようだ。


「エマさん、ライファさん、お言葉に甘えて、とどめを刺して下さい」


「はい」


 二人は返事と共に、走り出した。


「そういえば、あなた達には名前があるのですか」


「私は、シュドウ、黒い五人はシャドウです」


「シャドウさん一人ずつ、エマさんとライファさんの護衛に付いてもらうことは出来ますか」


「大丈夫です。仰せの通りに致します」


 そう言うとシュドウさんとシャドウさんは姿を消しました。

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