第60話 感謝

 私の涙は、父ちゃんとかあちゃんに会いたい思いも合わさって、せきを切ったように流れ出し、止らなくなってしまった。

 とても恥ずかしかったので、討伐依頼の出ていた森へ、移動魔法で移動した。


「とーちゃーーーーん!!」


 思わず森に向って叫んだ。

 心がすっきりしたのか涙は止った。

 でも、逆に出てはいけないものが、一杯出て来ました。


「ギッギギギィィィーー」


 討伐依頼の内容を確認したら、森に発生したゴブリン千匹以上の退治でした。

 こんなところで大声を出す馬鹿はいない。

 大量のゴブリンが、うじゃうじゃ変な音をたてながら出て来ました。


「うっ、うっ、うっ」


 エマさんと、ライファさんが震えている。

 私一人なら切り抜けられるけど、さすがに一度に何十匹ものゴブリンが襲って来たら、エマさんとライファさんは無事じゃいられない。

 移動魔法を使おうにも、二人は展開していて距離が離れすぎている。

 私の攻撃魔法は、直進しかしない。森の中では木が邪魔をして役に立たない。


 ――どうしよう。


 私は、恐怖に襲われて、座り込んでしまった。


「とうちゃん、助けてよー」


 ちいさく、力なく、泣きながらつぶやいた。


「ぎゃあああああああ」

「ぎゃっ」

「ぎゃああー」


 ゴブリンが悲鳴を上げて、倒れていく。

 エマさんとライファさんが、私の方を驚いた顔をして見てきました。

 それは、「イルナさん何をしたのですか?」と聞いて来ているようでした。

 私は首を千切れんばかりに振った。

 何が何だかわからないでいると、ありえない者が現れた。


「うわああああああーーー」


 その姿を見て、心の底からの悲鳴を上げてしまった。

 やばい、やばい、やばい。

 ゴブリンよりやばい奴が現れた。


 ――なんでこいつらがこんな所にいるんだよーー。


 こいつらが、ゴブリンを倒したんだ。

 ――あっという間に。

 こいつらが出て来たんじゃ、もうダメだ。

 私は、生きられる可能性を諦めた。


 震える体で、よろよろエマさんとライファさんの前に出ようとした。

 せめて、二人より前に死のうと思ったのです。

 私の怯え方の異常さを見て、二人も全身が震えています。


「なんで、こんな所にお前達がいるんだよーー!!」


 このモンスターが、返事をするとも思え無いのに声が出ていた。

 私達の前には、灰色が一匹、黒色が五匹の人型モンスターがいるのだ。

 このモンスターはレベル5、砂漠の中の、難攻不落のダンジョン、百四十階層のモンスターです。

 確か、最初に私の攻撃が通ったのは、レベル800を越えてからでした。


 私の今のレベルは百を越えていない。

 勝てるわけが無いのです。


「安心して下さい。私はアスラ様の配下です。イルナ様を見守るように指示されました」


「えっ……?」


 私はまた涙が出て来た。

 私は、調子にのっていた。

 地上のモンスターに遅れを取ることは無いと思っていた。

 父ちゃんは見透かしていたんだね。


「ありがとう。本当に助かりました」


 心から感謝をしました。

 そしたら自然に声が出ていました。


「アスラ……?」


 エマさんと、ライファさんが小さくその名を口にした。

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