第52話 可愛い侍女
「きゃーーーーー!!」
今日は、フォリスさんの悲鳴から朝がはじまった。
フォリスさんの膝かけのように男の体が乗っかっていたのです。
犯人はアドです。
昨日、フォリスさんにびったん、びったんやられて、死にそうになった仕返しなのでしょうか。
それとも、猫は自分を気に入って欲しくて、獲物をプレゼントすることがあると聞きます。それなのでしょうか。
「きゃーーーーー!! なにこれ、背中がとろっとした、液体でびちゃびちゃー。気持ち悪い――」
あーそれも、アドですね。
それ全部、アドのよだれです。
男は、折れた腕や足が腫れて、全身に熱があるようで、意識を失っているようです。
「うるさいニャー、それは、アドからのプレゼントニャ」
アドが自慢そうに、そして嬉しそうにしている。
きっと褒められたいんだなと、すぐにわかります。
「アドちゃん、二度とやらないでね」
フォリスさんが怒っていますね。
アドがそれを察知して、僕の所に来ました。
そして僕の膝の上にのって、上目遣いで見つめてきます。
くーーっ、可愛すぎです。思わず頭を撫でてしまいました。
「で、アドちゃん、これはなんですか」
「ガーディアンの隊長とか言っていたニャ」
「なんですってー」
今度はリコさんが驚いています。
「何を驚いているニャ」
「だって、ガーディアンって強いのですよ」
「ふっふっふ、たいしたことなかったニャ」
アドが自慢そうです。
「すごいです。さすがです」
「ふふふふ」
アドがとても天狗になっています。
その目は、フォリスさんに向けられています。
「でも、なぜ、捕まえてきたのですか」
「はあーっ、そんなこともわからないのかなニャ。尋問したり拷問したりして、魔王城の事を聞き出すニャ」
「魔王城の事なら、だいたい私がわかりますよ。それに入りたいなら私が案内できますよ」
そういえばそうでした。
リコさんとは魔王城の最深部、玉座の前で会ったのでした。
「失礼します。お嬢様大変です」
今度は、ロホウさんとシュリが入ってきた。
魔王城から慌てて来たようだ
「なんですか、そんなにあわてて」
「緊急で最高会議が開かれることになりました」
「そうですか。うふふ、丁度いいわ。アスラ様、一緒に会議に行きましょう」
「え、いいのですか」
「はい、大丈夫です」
リコさんが、とてもいい笑顔です。
なんだか、悪い予感がします。
「リコとロホウ、侍女二人です」
魔王城の門で衛兵の検問にリコさんが答えた。
「どうぞ、リコ様お通り下さい」
「ありがとう」
リコさんが僕を見て、片目をつむります。
「あのーリコさん、それはいいのですが、これは……」
僕は、カツラをつけて化粧をされて、メイド服を着せられています。
横に、だぶだぶのメイド服を着た、アドがいます。
「うふふ、とてもお似合いです。美形の少年は、女装をすると恐ろしく美人になるのですね。ほら、みんな振り返って見ていますわ」
うれしくねーー。死ぬ程うれしくねー―。
アドは、シュドウとシャドウに指示を出して城内に潜り込ましているようです。
幼児に見えるし、可愛らしい猫にも見えますが、意外と抜け目がありません。
「ここです」
リコさんに案内されて扉の中に入ると、広い室内に巨大な机が有り、その上に豪華な食事の用意がされていた。
まだ、前魔王の最高幹部達は来ていなかった。
「リコ、はやいな」
「あっ、お父様」
リコさんの父親は、驚いた事にロホウさんよりはるかに大きな体で、目つきが鋭い紳士だった。
ステータスを見たが、ブラインドをかけていて、見ることが出来なかった。
――これが、前魔王の息子なのか。強そうだ。
リコさんの父親は、僕とアドを鋭い目つきで交互ににらみ付けてきた。
なにか、不審な所があるのだろうか。
「その二人は?」
「はい、私の側近の優秀な侍女です」
「ふむ、また、時間のある時紹介しなさい」
「はい、お父様」
リコさんの父親が中に入ると、次々体の大きな、鋭い目つきの男達が入ってきた。
「この八人が、今のこの国の最高権力者です」
リコさんがヒソヒソ声で教えてくれた。
「迫力のある人達ですね」
僕もヒソヒソ声で返事をした。
どの幹部も人間をはるかに超える大きさで、その迫力は人間の王様など足下にも及ばない威厳があった。
「手前が、魔王の息子で、奥が魔将軍です」
魔将軍は服の上からでも、筋肉がわかるほど、発達した筋肉をしている。
「コウケン。反乱軍に、負けたと聞いたが」
リコさんのお父さんサダルさんが口を開いた。
「コウケンが筆頭魔将軍です」
リコさんが教えてくれた。
長い髭で、八人の中で一番大きな体の男だ。
「反乱軍もその位の元気がなくては面白くない。次は城塞都市で我らが直々に相手をする。話しはそれだけかサダル殿」
この話しぶりからすると、王子と将軍はあまり仲がよくないように見える。
「魔王を名乗る者がいると聞いた」
それを、聞くとリコさんが僕の顔を、ニコニコしながら見てくる。
ここにいる最高幹部の人達は、まさかその魔王が、メイド服を着て、こんな所にいるとは、思わないでしょう。
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