第51話 夜のお散歩

 日が傾き、暗くなると僕たちは商館に帰った。

 商館は、仕入れた武器や防具などの商品であふれかえっていたが、六階だけは開けてある。

 ここも一階同様、仕切の無いワンフロアーで、真ん中に巨大な机が置いて有り、その上に大きな地図がのせてある。

 その机のまわりで皆、思い思い適当に眠っている。


「皆、ねむったみたいニャ」


「はい、アド様」


 アドはこんな夜中に起きて何かをするつもりらしい。

 アドは十人のシュドウと五十人のシャドウを管理下に置いた。

 僕は全部渡すつもりだったが、アドが多すぎると言って断ったのだ。


「まずは、王城に忍び込んで様子を見て来るニャ。アドは夜行性ニャ。お前達は眠くないかニャ?」


「私達、シュドウもシャドウも睡眠は必要としません」


「じゃあ、夜の散歩に出かけるニャ」


「はい」


「その前にシュドウに名前をつけるニャ。お前達は右から零零一、零零二……零零十ニャ」


「は、はい」


 シュドウ達は感動しているようだ。

 ――こいつらモンスターは名前さえ付けてもらえば何でも良いのかー。


「全員、姿を消すニャ」


「はい」


「凄いニャ、全く見えないニャ」


 実は魔王の僕にも同じ、消える魔法が使える。

 内緒で付いて行く事にした。

 アドは全身真っ黒な服を着て、黒い頭巾をかぶった。

 尻尾だけは出している。

 六階の窓から体を出すと、隣の建物の上に飛び移った。


 夜の町も美しかった。

 魔王城は商館の南側に有り、さほど離れていない。

 巨大な城が、真っ黒なシルエットで浮かび上がっている。

 アドは臆すること無く城に向って、屋根の上を飛び移っていく。

 魔王城に一番近い建物の屋根で止ると後ろを振り返った。


「みんニャ、いるニャ?」」


「はい、全員います。ただ、関係ない人までいます」


 ――あれ、僕がついてきているのバレたかな?


「く、くっくっくっく」


 笑い声がする。

 隣の建物から人影が飛び移ってきた。

 アドは囲まれてしまった。


「お前達は、誰ニャ」


「私達は、ガーディアン。魔王様を護衛するものよ」


 ああ、前魔王の護衛ね。

 なんだか強そうだ。


「警戒を厳重にしていたら、もうネズミが引っかかったわ」


「ネズミじゃないニャー、アドは猫ニャ!」


 ――だめだーこの猫、自己紹介しちまいやがったー。


「一人でどうするつもり、ネズミちゃん」


「がはっ」

「ぐあっ」


 アドは囲んでいるガーディアンを一瞬で倒した。

 確かに強いなこの子猫。

 倒したガーディアンを一カ所に固めると、建物の上から降りた。

 ここから王城までは、建物伝いには行けない。

 広く空白地をもうけてあるためだ。

 姿をさらさないとたどりつけ無いのだ。

 しかも結界が張ってある為、移動魔法も使えない。


「今日はここまでニャ。お散歩はおわりニャ」


 アドは忌々しそうに城を見上げると、倒したガーディアンのところに戻った。

 鼻をつまんで、口に回復薬を流し込んだ。


「げほっ、げほっ」


「気が付いたかニャ」


「きさま――っ」


「暴れたり、大声出したり、暴言を吐くなら、次は殺すニャ」


「うっ」


 ガーディアン達は、あまりの迫力に黙ってしまった。

 頭巾から出された、アドの目は夜空の星の光を反射して、怪しく光っている。


「お前達が守る魔王様は、どこにいるのかニャ。いない魔王のガーディアンは偽物ニャ。アドこそが本当の魔王様のガーディアンニャ」


「なにが、本当の魔王様だ。そいつこそ偽物だろう!!」


「本当の魔王様は、強いぞ。この私が幼女扱いだ。力も強い、捕まったら身動きが取れなかった。昨日は結婚を迫ろうと思った程だ」


 怪しく光る目が、更に怪しさを増し迫力をました。

 妖艶な化け猫の雰囲気がある。


 ――このちび、なんか恐ろしいぞ。

 しかもニャ言い忘れとるし。

 結婚とか言おうとしてたのかよー。アドちゃん、恐い子。


「我、魔王様はお前達でも、いつかは自分の配下になると、信じるようなお方だ、もし本当の魔王様に仕えたいのなら、いつでも訪ねてくるといいニャ」


 そうか、このため自分の名前を明かしたのか、アドの奴、頭も良いな。

 ――た、たまたまかな?


「ま、まってほしい、それならば一度魔王様に、会わせて欲し……ぎゃあああああああ」


 一瞬でガーディアン達にナイフが刺さっている。

 アドだけはナイフを人差し指と中指で止めている。

 全員正確に心臓を突き刺されている。

 相当な手練れだ。


「ぎゃあーーはっはっはっ」


「だれニャ!!」


 隣の建物からガーディアンを殺して笑っている奴がいる。


「馬鹿が、裏切ろうとしやあがって、裏切り者は死んどけ。俺はそいつらの隊長様だー。死ねーー。ぎゃーーはっはっはっは」


 痩せた、目つきの悪い男がアドに笑いながら襲いかかった。

 その攻撃をアドはぎりぎりで数度避けた。


「くそう、なかなかやるな。だが逃げてばかりでどうするつもりだ」


「もっと、強いのかと思ったけど、たいしたことないニャ」


 バキッ、バキッ


「ぐああああーーー」


「これは、アスラバキと言うニャ」


 いや、いや、それは勝手に誰かが言っているだけですよ。

 勝手にひろめないでー。

 ガーディアンの隊長は手足を折られて動けなくなった。

 ガーディアンの隊長程度では、アドの相手にはならないようだ。


「これで、散歩のいいお土産が出来たニャ。みんニャ、帰るニャ」


 ガーディアンの隊長をブラブラくわえて、商館に帰ろうとしている。

 その顔はまるで、ネズミを捕まえた猫のように満足げで楽しそうだ。

 アドちゃん口から滅茶苦茶よだれが垂れて隊長さんにかかっていますからね。


 僕は、気付かれないうちに移動魔法で商館に帰った。

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