第50話 影の部隊

 敵勢力がいなくなったのを確認し、兵士を休憩させて幹部に集まってもらった。


「さて、魔王軍最高幹部の皆さん、これからの目標をお伝えします」


「……」


 一同は鎮まりかえって、ツバを飲み込んだ。

 全員の顔をゆっくり見回して、僕は重々しい雰囲気を出します。


「魔王正規軍の次なる目標は、魔王の玉座です。皆さんの手で奪還し、僕をそこに座らせて下さい」


「……」


 あれ、誰も反応が無い、僕みたいな子供が言ってもあんまり、リアクションも取れないのでしょうか。


「…………うおおおおおおおおおーーー!!」


 オウブさんの声が一番大きいですが、皆さんが雄叫びを上げてくれた。感動していてくれたようです。


「では、オウブさん」


「はっ」


「オウブさんは、中央を進軍し、玉座奪還を目指して下さい」


「は、ははーーっ」


 オウブさんが、丁重に頭を下げてくれた。


「チョカイさんは、北部を進軍し、玉座奪還を目指して下さい」


「はっ」


「リョウメイさんは、南部を進軍し、玉座奪還を目指して下さい」


「はっ」


「但し、占領した村や町からの略奪や虐殺は禁じます。もし、そんなことをする者がいれば、確実に死罪として下さい」


「はっ」


 オウブさんと、チョカイさん、リョウメイさんの返事がそろった。


「そして、敵兵も捕まえたら、武器と防具を没収して逃がしてあげて下さい」


「逃がすのですか。また、敵としてむかってきますが……」


 リョウメイさんが、疑問をぶつけてきた。


「はい、かまいません。いずれは魔王軍の一員となり、人間の国を攻める時の仲間になる人達です。何度でも逃がして、その都度勝っていけば、いずれ心から信服してくれるはずです。いいえ、信服させて下さい」


 これはこれで本心ですが、僕はもう一つの事を考えています。

 武器と防具を没収した兵士達は再度出兵する時、武器と防具が必要となり、エドバン商会から高い武器と防具を買う事になります。

 それと、捕虜にすると、その食事や、管理に多くの経費がかかります。

 逃がした方が、利があると考えているのですよ。僕わ。


「わかりました。魔王様はそんな先の事までお考えでしたか」


「はい、玉座の次は皆で人間達から国土の奪還をしましょう」


「はっ、わかりました」


 リョウメイさんは理解してくれたようです。

 オウブさんもチョカイさんもうなずいているので大丈夫でしょう。


「ルチョウさんは、引き続き居城の建設をお願いします。建設には、占領した町や村から、孤児や貧しい人を集め、仕事を与えて下さい。お昼ご飯は、全部魔王軍で費用をもって、欲しいという人には、どんどん食べさしてあげて下さい。魔王は国民にひもじい思いをさせないと広めて下さい。家の土地は、ただで分け与えて下さい。当然給料も、弾んで下さい」


「わかりました。しかし費用がかさみますが……」


「お金は、魔王都から、奪い取りますので気にしないで下さい。城の建設だけでは無く、町の開発までお願いします」


「はっ、わかりました」


「では、宴会でも始めましょうか」


「おーーーーっ」


 僕の言葉で、食事の準備がはじまった。

 皆が準備に入ったのを見て僕は足下に、目を落とす。

 そして、気持ちよさそうにうっとりしている自由人の前に座った。

 頭を撫でると。


「ニャーーー」


 可愛い声を上げる。

 うん、可愛い。

 また、腹を出してきたので。


「おーよしよし、よしよし」


 撫でてあげた。


「アスラ様!!」


「わっ!?」


 急にフォリスさんが大声を上げた。

 僕はその剣幕に驚いた。


「ど、どうしたのですか?」


「この方の鑑定をしてみて下さい」


「えーーと、天神の忍者……えっ天神の忍者ってどんなジョブだ」


「密偵みたいなもんニャ、生まれつきの固有ジョブみたいニャ」


「へーー、凄い」


 僕の勇者みたいなものか。


「そ、そんなところで、止らないで下さい。もっと先です」


 フォリスさんがあせっています。何でしょうか。


「えーーっと、天神の忍者、名前はアド、レベル百二十、なっ、レベルが高い」


 フォリスさんは、このレベルの事を言っていたのか。

 確かに個人でここまで上げたのなら、凄いことだ。


「ち、違います。どうしてそこで止めるのでしょうか」


 フォリスさんにあきれられてしまった。

 この先に何があると言うのだろうか。


「えーーっと、天神の忍者、アド、レベル百二十、年齢二十歳……えーーーーーっ」


 二十歳!?

 どう見ても、七歳か八歳……もっと下にも見える。

 今、僕の手は、二十歳の女性の胸から腹にかけて上下している。


「うわあーーーーーっ」


 思わず手を離した。


「ふふぃひ」


 アドさんが変な笑い声を上げ、悪魔のような笑顔になった。


「うっ」


 少し僕はたじろいでしまった。


「女をこんなにもてあそんだのなら、責任をとってもらわないといけないニャ」


「な、なんですって!!」


 フォリスさんとリコさんの声がそろった。

 ま、まさか、け、結婚しないといけないのか。

 まずい


「ぼ、僕は、もうじき勇者に殺される身です……お、おんにゃの人と、そういう関係には、にゃ、なれないのれす」


 う、ううう、うわずって、まともに話せなかった。


「それなら、なおの事ニャ、アドの飼い主になってもらうニャ。そして、飼い主の命は、アドが命をかけて守るニャ」


「はーーっ、そういう事ですか」


 僕と、フォリスさんとリコさんの声が合わさった。


「クザン、ダンジョンの百四十階層の、エリアボスは何という名前だったかな?」


「はっ、我あるじ、ジュウドウです」


「うん、ジュウドウと配下の名前は?」


「はい、シュザクにあたるのが、シュドウ。スザクにあたるのがシャドウです」


「あいつら、姿と気配を消して、移動魔法を使うから戦いにくかった。だから密偵に良いと思うのだけど、配下になってくれないかな」


「配下になるかどうかは、ジュウドウ次第ですが、アスラ様とフォリス様の配下になりたくないモンスターはいないと思います」


「ちょっと、ダンジョンへ行って来る」


 ジュウドウは喜んで配下になってくれた。

 ついでにジュウドウ配下のシュドウ百人、シャドウ五百人も配下になってくれた。

 ダンジョンの床に転がっている、ジュウドウとシュドウ、シャドウの魔石をあるだけ収納した。

 ジュウドウは、クザンと同じ位の体格で色も似ているが、ちょっとインテリっぽいおっさん、シュドウは灰色でシャドウは真っ黒の人型モンスターだ。


「アドちゃん、いや、アドさん」


「アドでいいニャ、アドは飼い猫ニャ」


「アド、シュドウとシャドウを配下にして、影の部隊を作って、情報収集をお願い出来ますか」


「嫌ニャ」


「えっ」


「ちゃんと命令してほしいにゃ」


「アド、影の部隊を編成し世界中の情報を収集せよ」


「ニャーー」


 アドは抱きついて来た。

 お、お前こそちゃんと返事をしろーーー!!

 まあ、可愛いからいいけど……

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