第53話 軍議
「全く、ボサボサしてるんじゃ無いよ。サッサとやりな!」
僕はいま、最高幹部様の食事の片付けを手伝っています。
おばさんのメイドさんに、要領が悪いので怒られています。
アドはとても要領よくちょこまか働いて、皆から可愛いと喜ばれている。
「これは……」
「どんくさい子だねえ、同じ大きさでそろえて運ぶんだよ」
「こうですか」
「そうそう……」
「教えていただいて、ありがとうございます」
僕はとびきりの笑顔でお礼を言いました。
おばさんが顔を赤くしました。
「な、何をしているのですか。アス……アズサさん、あなたはそんなことをしなくてもいいのです」
リコさんが、あわてて止めに入った。
「いえ、私はメイドですので、お手伝いするのは当然です」にこり
「ふぁ、ふぁなたふぁ、わ、わた、私の護衛ですからしなくてもいいのです」
リコさんが僕の顔を見て、赤い顔をして、しどろもどろになりました。
「こんな、少女に護衛は無理でしょう」
あきれ顔で、おばさんのメイドさんが言います。
「ふ、ふふふ、私の護衛のアズサはロホウより強いのですよ」
「なーーーっ」
まわりから、驚きの声が上がりザワザワした。
あまりの騒動に八人の最高幹部までこっちを見ている。
この件で魔王城内に、ロホウより強い美少女メイド、アズサの名が広まってしまった。
「リコ様、何てことを言うのですかー。私を目立たせないで下さーい」
僕は少し怒った顔をした。
「ふぁー、ごめんなさい。そんなつもりはありませんでした」
リコさんは、また赤い顔をして、くねくねしている。
はっ!!
まさかこの人、美少女好きなのか。
まあ、人の嗜好は自由ですが、僕は男ですから、やめて下さい。
食事の片付けが終ると、軍議が始まり、護衛の一名以外全て室外に出され、開放されていた扉が全て閉められた。
サダルさんの護衛はロホウさんが務めている。
扉は閉められているが、声が大きいので、軍議の内容はほぼ聞こえた。
軍議は、出兵する人数、武器などの軍事物資の調達、運搬など細かい内容が話し合われている。
戦争をするというのは大変だと、こんなところで僕は教えられた。
帰ったら、僕も物資の運搬などについてきっちり話し合わないといけないと思った。
「アズサさん、帰りましょうか」
リコさんが、こっちを向いて誰かを呼んでいる。
あっ、僕を呼んでいるんだ。
ずっと、食料をどこで調達して、どの位物量がいるのだろうかと考えていたら、軍議は終ったようだ。
「は、はい」
商館に帰ると。
「皆は、どこですか」
軍議が開きたくて、留守番のシュラさんに所在を訪ねた。
「はい。皆さん六階です」
僕は飛ぶように六階に上った。
「あっ、お帰りなさい。アスラ様」
フォリスさんが、僕に気づき声をかけてくれた。
皆は、机の上の地図のまわりに集まっている。
なんだか地図の上に、おもちゃの様な木の模型がいくつも置いてあります。
僕は荷馬車の様な模型を見て質問する。
「これは、何ですか」
「これは、オウブさんの部隊への補給隊です」
チッカさんが答えてくれた。
すでに、うちの作戦参謀本部は、軍議を終らせているようだった。
「オウブ様、村長を連れてきました」
「うむ」
俺は、あせっていた。
すでに進軍を始めて一ヶ月ほど立ってしまった。
チョカイもリョウメイも進軍に手こずっている。
「き、貴様らのせいでこの有様だ。どうしてくれるんだ」
村長達は、反乱軍のせいで村が破壊されたと思っている。
前魔王軍は、俺たちに補給をさせないように、村から略奪をして火をつけ、井戸には毒を入れていく。
「復旧には、力を貸す、水も食料も提供する。俺たち魔王様のもとで暮らすのが嫌なら、村を出る費用も払おう」
「な、なんじゃと」
「我らの魔王様は、優しくて、心の広い、大きなお方だ。魔人全ての繁栄を願っている」
「なんと……」
ふふふ、こう言うと、皆、目線を上の方にして、魔王の姿を想像する。
巨大で大きな角をはやした魔王を想像する様だ。
「全軍に伝えよ、村人が困らぬように、仮住居をつくり、食料を村人に提供しろーー」
「ははーっ」
補給がしっかりしているので、村人に食料を提供しても、次々送られて来て兵士が腹を空かせることが無い。
それはいいのだが、俺たち魔王軍は、戦闘よりこうした村や町の、復興の為時間がかかり進軍が遅れるのだ。
「しかし、スザクはすごいのう、家がみるみる立ちよるわ」
「オウブ様、敵襲です」
前魔王軍は、日が暮れると夜襲を仕掛けてくる。
俺たちが、村の復興をするのがわかっているから、進軍を遅らす為、火をかけに来るのだ。
「シュブちゃんは、スザクを率いて、敵兵を全てアスラバキ、シュオウちゃんはシャドウを率いて村内の護衛をお願いします」
「はっ」
俺はシュドウに、シュオウちゃんという名前を与えて、服を与えた。
数分後、二百人ほどの兵士を捕らえることが出来た。
「敵兵はこれで全てです」
「シュブちゃん、シュオウちゃん、ありがとう」
俺が頭を下げると、二人はもじもじして、嬉しそうに見える。
表情が無いモンスターだが、もうめちゃくちゃかわいい。
連れてきた兵士達は、アスラ様の言うとおり装備を没収して、丸裸にする。
「お前達、わが魔王様の配下になる気はないか?」
「……」
「オウブ様、俺はシジセイといいます。これまで七度捕まり同じ質問をされた。本当になんの分け隔ても無く、仕えさせて貰えるのだろうか」
しばらく鎮まりかえった兵士だったが、その中のひとりが問いかけてきた。
シジセイという男はひときわ体の大きな男で美形の黒髪だった。
俺は、無言でゆっくり静かにうなずいた。
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