第45話 手加減

 少女姿のフォリスさんにロホウさんは、どうやら本気のようです。

 リコさんだけがオロオロしています。

 きっとロホウさんが、フォリスさんを殺してしまう事を、心配しているのでしょう。優しい人です。


「行くぞー!!」


 かけ声と共に、ロホウさんが右手の拳を突きだします。

 ロホウさんの金髪がキラキラ光り拳から風を切る音がします。歯を食いしばる真剣な顔は、恐ろしく美形です。

 突き出された拳は、フォリスさんの顔ほどの大きさがあります。


 パーーーーン


 フォリスさんはそれを、手のひらで受けました。

 大きな音が商館内に響きました。

 フォリスさんはその手のひらを、ほんの少しひねりました。


 ドッカアアアアーーン


 商館が、ビリビリ振動します。

 ロホウさんの体が床に恐ろしい勢いで回転して、叩き付けられました。

 鎧の隙間から、大量の血が出て床に、見る見る広がります。


 全身の骨が砕けたようです。

 目は見開かれたままです。

 ですが微かにまつげがけいれんして揺れています。


 ――まだ生きている!!


 僕は慌ててエリクサーを用意して、口に入れようとした。


「何をしようとしているのですか」


 僕の手にある黒い霧に包まれた真っ黒の液体を見て、毒とでも思ったのでしょうか、リコさんが僕の手をつかんで邪魔をします。

 ――説明する余裕はないのにー

 僕はそれを振りほどき、ロホウさんに飲ませます。


「がはっ、がはっ」


「浄化」


 浄化魔法で、流れ出た血も綺麗にしました。


「リコさん、エリクサーです」


 僕は、空瓶を見せて中身がエリクサーと伝えます。

 ロホウさんが何も無かったかのように立ち上がりました。


「すっ、すみません」


 リコさんが申し訳なさそうに謝ってくれました。

 僕はそれを聞いて少しうなずいてから、フォリスさんに目を移します。


「フォリスさん、やり過ぎです。弱いとわかっているのですから、もっと手加減しないと死んでしまいますよ」


「で、でも、なんか強そうな雰囲気でしたので、こんなに弱いとは思いませんでした。ごめんなさい」


「……」


 リコさんと、ロホウさんの目が点になっています。

 なんか、まずいことを言ってしまったのでしょうか。


「これで、僕たちの実力の証明と、させてもらえませんか」


「うふふ、わかりました。そして、他の人はその少女より強いと言うことですね」


 あっ、リコさんが勘違いをしたようですが、まあ良いでしょう。


「実力はわかりました。では、次はなぜこのような事をしたのかと言うことです」


「ふっふっふっふっふっふー、げほっ、げほっ」


 僕は、いつもより長く笑った。

 そしたら咳が出た。


「魔王に、手を出したからです」


 そして、少しふんぞりかえっています。


「あー、先に手を出したのは、あっちですよ」


「ぷーーっ。わかりました。十分理解出来ました」


 僕が、急に弱気になったら、それが可笑しかったのかリコさんが笑っています。


「まあ、悪党の千や二千どうなろうと、気にする人もいないと思います。この事は私とロホウの胸の中に納めておきます」


 リコさんがにっこり笑ってくれました。


「ありがとうございます」


「でも、あまり魔王というのは、人に言わないでください。いろいろトラブルの元になりますから」


「はい」


 それは大丈夫です。

 魔王なんて言うのは、バレているあなた達だけですから。


「少し時間をいただいても良いですか」


「はい」


「じゃあ、シュリさん、ちょっとこっちに来て下さいますか」


「……」


 シュリも何のことかわからず、そのまま返事も出来ずに付いていきます。

 何のことかわかりませんが、シュリとリコさんが階段を上って姿を消した。


 シュリは、昨日お隣さんに、あいさつに行く時、コデルさんの護衛の為に出したシュザクで、シュカは僕のレベルが上がらないように、戦闘を任せようと出したシュザクだ。


 人の姿じゃ無いと、あやしまれるので人間の形にした。

 その時、モデルにしたのが、リコさんとチッカさんだったので、名前をシュリとシュカにしたのだ。


「では、お邪魔しました」


 階段から降りてくると、リコさんはロホウさんと帰って行った。




「では、邪魔者もいなくなりました。またお店の準備を始めましょう」


 中断していた作業を再開した。

 明日からは、仕入れに力を入れないといけません。

 今日中に準備は全部済ませたいと思っています。


「チッカさん、この街の武器屋さんとか、薬屋さんとかわかりますか」


「私は、あまりよく知りません。お役に立てなくてすみません」


 チッカさんが悲しそうな顔になりました。


「いえいえ、僕たちも全く知りませんからね。でも困りましたねーー」


 僕が困った顔をしていると、僕の顔をキラキラ輝く瞳で見ている人がいます。シュリです。

 少し頬も赤くなっています……。


「私は、この街のことは詳しいですよ」


 シュリが変です。

 そんなわけがありません。


「なんで、あなたが知っているのですか」


「えっ」


 全員が手を止めて、シュリを見つめます。

 シュリが汗をかき始めました。

 シュザクが汗をかくはずがありません。


「あのー、あなたはシュリではありませんね」


 もう誰かは、わかりました。

 シュリと服を入れ替えて、シュリになりすましている人でしょう。

 まあ、でも結果オーライです。

 この街に詳しい人は、貴重な戦力です。

 明日から、馬車馬のように働いてもらいましょう。

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