第44話 挑発

「うわーーーーーーーっ」


「ぎゃあーーはっはっはっ」


「ぐわーーーーーーっ」


「ぎゃあーーはっはっはっ」


「リコお嬢様。そんなに笑っては失礼ですぞ」


「だってロホウ。人が、人が、プッ、玉座に現れる度に悲鳴を上げるから、おかしくって」


 私は、魔王の玉座での騒ぎの調査に来ている。

 何故なのか、手足の骨を折られた男達が、玉座の上に降って来るのだ。

 人が転送されてくる度、結界をはっている魔法使いが悲鳴を上げる。本当は失礼な事なのだろうけど、それを見て笑ってしまう。だって、面白すぎるんだもん。


「うわああーーー、またきたーーー」


「お前達、本気で結界を張っているのか。真面目にやれ――!!」


 ロホウが魔法使いに怒りをぶつけます。

 いい気味です。

 魔法使い達は普段、私達騎士を馬鹿にしているのですから。


「ほ、本気ではっている。こんな結界をやぶれる者などおらぬはずだ。うわーーーーっ、また来たー」


「くーーっくっくっ……」


 言っているはなから、次が送られてきました。

 もう気の毒で、笑いを押し殺そうとしても、止められません。


「こ、これは、どうなっているのだー。――おい、しっかりしろ、しかりしろ」


 魔法使いの一人が、口から泡を吹いて倒れた。


「ロホウ、見てあいつらの腕」


「ふむ、二匹の龍、闇の双龍とかいう組織の者ですな」


「お父様の支配地区の者ですね」


「そうですな」


「一体誰がやったのか、明日調査に行きましょう」


 私は事の真相を探る為、明日、闇の双龍のアジトへ調査に行くことにした。


「はっ」


「ぎゃーーーーー、又来たーー」


「ぷーーーっ、くっくっくっ」


「凄いですなー、すでに四百人以上、来ておりますぞ」


 明日が楽しみになりました。




 翌日、


「ふむ、誰もいませんな」


 ロホウが首をかしげます。

 魔王城に近い街の一角に、闇の双龍のアジトがあります。

 普段は人相の悪い男達が、大勢いるこの路地に人がいません。


「よかったわ、騎士団を三百人連れてきて、相当恐ろしい敵ね」


「結局千人以上の男達が、送り込まれたと聞きました」


「そうですね」


 次から次へと、送り込まれる手足の折れた男達。

 それを止める為、城にいる魔法使いが全員集められたが、防ぎ切れなかったと聞いた。

 こんなことを出来る魔力の持ち主は、私の父を含む魔王の子か、森の魔女くらいだと言っていた。


 ――いったい、誰なのだろうか?




「あ、あれは?」


 闇の双龍のアジトの並ぶ路地を左折して、裏側にまわった。

 そこに見慣れぬ商会が出来ている。


「エドバン商会?」


 聞いたことも無い商会だ。

 こんな場所に、商会を立ち上げる馬鹿はいない。

 昨日の、事件に無関係と思えるはずも無い。


「少しのぞいて見ます」


 私は、窓から中をのぞいた。


「あーーーーーっ」


 私と一緒にのぞいていたロホウも、声を上げた。


「しばらく、ここに待機していなさい。私とロホウはここで聞き取り調査をします」


 配下の騎士を表に待たせ、私はロホウを護衛にして、商会のドアを開けます。


「いらっしゃいませ」


 美しい女性が声をかけてくれました。


「やっぱり、あなた……」


 奥にいる少年に見覚えがある。


「あっ、リコさん、ロホウさん」


 私達に気が付いた美少年が、太陽のような笑顔で私達の名前を呼んでくれた。

 明るいところで見る少年は美しくて、とてつもなく可愛い。

 しばらく見とれてしまった。


「魔王様ですよね。ここで、いったい何をしているのですか」


「はい、お店の準備です」にこり


 ぐはっ、なんだこの笑顔は、可愛すぎるだろう。

 玉座の上で見た時は暗かったのでよく見えなかったのかー。

 私がこんな少年に、ここまで心奪われてしまうとわ。


 私はほてる顔を見られないように、うつむいてたずねた。


「昨日の事を聞きたいのですが……」


「あーーあれですか。あれはこの人達がやりました」


「この人達……」


「フォリスさんと、クザン、コデルさんと、シュラさん、シュリ、シュカです」


「な、何ですか、このシュリという人は、私にそっくりじゃあないですか」


「ほんとですね。驚きました」


「……、そ、そうではなくて、私は、この商会の裏の、闇の双龍という組織について聞いているのです」


「ですから、骨をポキポキ折って玉座の間に移動させたのは、僕とこの人達です。間違いありません」


 このことは、誰もが知っていることではありません。

 信じるしか無いようです。


「たった、これだけの人数で……」


 しかも、まともに戦えそうな戦力は、クザンという大男だけです。

 あとは、少年と少女、女が三人、エルフ美女が一人だ。


「し、信じられんそんなこと」


 ロホウがつぶやきました。

 私も信じられません。


「ふふふ、ロホウさんはお強いと思いますが、試してみますか、丁度この商館はまだ何もないので、試合ぐらい出来ると思いますよ」


「ふむ」


「こっちは、フォリスさんにお願いしましょうか」


 少女がぴょんぴょん跳びはねて喜んでいる。

 この子はこの子で可愛すぎる。

 でも、女だからか心は、トキメかなかった。


「ま、まて、こんな少女では、殺してしまう」


 ロホウがあせっている。

 この者達は、知らないのだろうか。

 ロホウは若いけど前回の武術大会では、猛将オウブを破って優勝した男なのですが……。


「なっ……」


 その言葉を聞いて、少女の眉が吊り上がった。

 なんて沸点の低い少女なのだろう。

 ズダーーーン

 そしてロホウの足を払って、倒してしまった。


「ぐああーーーー、な、なにをする」


 さすがのロホウの顔にも少し怒りが宿っている。


「……」


 少女は、倒れたロホウを見て、無言で笑っている。

 可愛いくせに、感じが悪すぎる。


「ふむ、わかった。お相手しよう」


 うわあ、ロホウが本気になっている。

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