第46話 攻城戦

「ぜんぐーーん、とまれーーーー!!」


 夜、夜襲を恐れ、アルアド領都から距離を取っていた為、早朝から行軍してきた。

 オウブ隊五百人、チョカイ隊千五百人、リョウメイ隊三千人、シュザク三人、スザク三十人の陣容で、領都の前に布陣した。

 対するアルアドは四千人で籠城戦をするつもりだ。


「ふふふ、オウブよ。アルアドの奴、領都から出ないつもりだぞ。生きとる間に攻城戦ができるとはなあ」


「チョカイはのんきでいいなー」


 攻城戦は、防壁の上からの弓攻撃で、多くの兵士を失う。

 アルアド領は、領主が獣人だから獣人が多い、もし、正面から戦うのなら、戦力は五倍必要だろう。


 すでにアルアドは、全兵士を俺たちの前に集め、弓を構えている。

 城壁の上で、やじりが太陽に反射してキラキラ輝く。

 まるで水面のようだ。


「困りましたねえ、千人多いとはいえ、防壁に近づけば数の優位などすぐに逆転します。そうなれば、アルアドはうって出てくるでしょう」


 腕を組んで、リョウメイは眉間に皺を寄せた。


「あのーー、オウブ様」


 おおおーー、俺のシュブちゃんが心配そうな声をしている。

 俺のシュブちゃんは、今回服を着ている。

 白地に薄い桃色の縁取りをあしらった、可愛い服だ。

 動きやすい様に、半袖と短パンだ。


 チョカイがまねをして、シュカイちゃんに同じような服を着せている。

 何を考えているのか、長袖に長いスカートだ。

 動きにくいだろうに。


「どうしました、シュブさん」


「これは、密命なのですが、服のお礼にお伝えいたします」


「はい」


「アスラ様は、私達シュザクに、兵を一人も死なせるなと、命じました」


「なんと、そのような無茶を」


 アスラ様はそんなことを命じておられたとは、チョカイはすでに涙ぐんでいる。


「今回の戦い、私達シュザクとスザクだけで、攻めるように命じてはもらえませんか」


「しかし、俺もスザクだけで攻めるなと、釘を刺されている」


「それでしたら、ここまで兵士と来ていますから、達成していると思います」


 もし、シュブちゃんに表情があれば、きっとここでは、とびきりの笑顔なんだろうなーー。

 そんなことを考えていたら、本当に笑顔に見えてきた。


「ふむ、なんだか、すっきりしないが、この状況で攻めれば確実に死者が出る。シュブさん頼む。気を付けて行ってくれ」


 シュブさんが、じっと俺を見つめてくれている。


「……はい」


 少しの間、動きを止めていたシュブちゃんは、俺からの言葉に何かを感じているようだった。

 俺は、シュブさんをぎゅっと抱きしめていた。


「私はモンスターですよ……」


「……」


 俺は、ゆっくり両手を離した。

 横を見たら、チョカイがシュカイちゃんを抱きしめている。


「行ってきます」


 シュブちゃんとシュカイちゃんの声が重なった。


「絶対に生きて帰ってくれ」


 俺と、チョカイの声が重なった。

 二人のシュザクちゃんがうなずいた。表情は変わらないが、俺には笑顔が見えた。


「シュブ隊いくぞーー」

「シュカイ隊つづけーー」

「シュメイ隊行きまーす」


 シュザク三人に、スザク三十人が続いた。


「おい、お前達ずるいなーー」


 リョウメイが話しかけてきた。


「何の話しだ?」


「シュザクに服を着せているじゃ無いですか。うらやましい」


「おめーは、四人も嫁がいるじゃねーか!!」


 俺とチョカイの声がそろった。

 シュザクとスザクの部隊が近づくと、アルアドの弓隊の矢が降り注いだ。

 それは、まるで、防壁に流れる滝の様だった。

 ザーっという音の中に、カーーン、カーーンと鋭い音がする。


 敵の中に豪腕の射手がいるようだ。

 シュブちゃんは、あたっていないだろうか。心配である。

 我軍の三十三人は馬より速く走りすぐに城壁へたどり着いた。

 門の前に、シュザク三人が立ち手のひらを当てる。


 その間も矢は滝の様に降り注ぎ、そのほとんどが命中している。

 だが我軍の三十三人はまるで気にならないようだ。


 ドゴオオーーーンン


 すさまじい轟音と共に門が吹き飛び、反対側の門まで破壊した。


「す、すごいもんじゃのう……」


 チョカイがつぶやいた。

 シュザク隊とスザク隊は城内に雪崩れ込んだ。


「ぎゃああーー」

「ぎゃっ」

「ぐあああああーー」


 城内から叫び声が聞こえる。

 シュブちゃん達のアスラバキがはじまったようだ。

 城内が静かになると俺たちの前に、両手両足を折られたアルアドが転がされた。


「……」


 アルアドは、歯を食いしばり俺たちをにらみつけている。

 その横に俺のシュブちゃんが、ひざま突きうつむいている。


「オウブ様、申し訳ありません。服が、服が……」


 それはもう泣いているようにしか見えない。


「服など気にしなくてもいい、又買ってあげるから……」


 俺がそう言って、シュブちゃんを立ち上がらせていると、シュカイちゃんがボロボロになって帰ってきた。


「チョカイさまーー、服が、服が」


 シュブちゃんと同じように泣いているようにみえる。


「な、なにーーー」


 俺は驚いた。シュカイちゃんの胸と股に、白い物が見える。


「チョ、チョカイてめーー!!」


「ふん、下着をつけるのは当たり前だろう」


「く、くそーーーっ」


 俺も真似することを心に誓った。

 もう、アルアドのことなど、どうでもよくなっていた。

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